プロレスラーの弟子時代に、料理や掃除、洗濯をする機会があったという佐々木も、結婚してしばらくは“家事は母親の仕事”と無意識に考え、手伝うことをしなかったと振り返る。
「もともと父親が一切家事をしない家庭で育ったから、最初は全部妻に任せていたんです。するとあるとき『私は家政婦じゃないんだよ!』と言われてしまった。確かにその通りだと、それ以降は自然とやるようになったけれど、いまだにうまくいかないものです……」(佐々木)
実際、データ上においても妻と夫の家事時間には大きな差がある。東京都が’21年に子育て世代を対象に行った調査によれば、1週間につき妻は夫より5時間20分も長く家事に携わっているという。
「これが数十年積み重なれば、家事スキルには研修を終えたばかりの新入社員とベテラン社員くらいの差が生まれます。後者は何をどこまでやればいいか把握していますが、前者は言われたことをこなすので手一杯でも無理はありません」(佐光さん)
着地点が共有できていない
精神科医の樺沢紫苑さんは、コミュニケーション方法における男女の差異も家事トラブルに拍車をかけると話す。
「一般的に女性は、“察して行動してほしい”心理が働く、コミュニケーション能力が高い人が多いうえ、相手への期待値も高い。一方、男性は察することが苦手で、言葉にしないと伝わりづらい。肉は何グラム、魚は何切れ、納豆を買うならどこのメーカーなどと詳細まで言わないと誤解が生じるうえ、『言わなくても当然わかるだろう』と期待していた妻はイライラすることになる。せっかく買ってきたのに文句を言われたら、夫も不快な思いをしてしまいます」(樺沢さん)
社会的な背景や男女の性差が“溝”の一因であることは間違いないが、佐光さんによれば役割が逆転した家庭でも同様の問題が起きているという。
「知り合いの専業主夫が連れ合いに『トイレットペーパーを買ってきて』と頼んだら、普段使っているのとはまったく違うバラの香りがついたものを買ってきたとか。“いつものブランド”も共有されていない例です。
お互い気遣ってはいても、情報共有や意思疎通がうまくいっていないケースが目立つ。お願いする側は『普段一緒に生活していればこのくらいわかるはず』と思い込み、いつものブランドや手順がわからないと怒り出す。となると、手伝う側は、相手の機嫌を気にする余り、質問さえできないということも起こりがち。
手伝って地雷を踏むくらいなら、最初からやらない方がいいと話す人もいる。“着地点”がどこかわからないまま家事を依頼し、手伝い、お互いモヤモヤしている夫婦が多い印象です」(佐光さん)
イラスト/藤井昌子
※女性セブン2022年9月8日号