かつてと様相が異なる炊き出しの風景
安いどころか、「タダ」に群がるフツーの人たちもいる。リーマン・ショック後に増えた公園などでの炊き出しが、コロナ禍でまた増えている。都内では、日比谷公園や上野公園、渋谷の宮下公園、新宿都庁前の高架下などで日替わりで行なわれており、生活困窮者たちをサポートしている。
ただ、炊き出しに並ぶのは、かつてはホームレスや失業者ばかりだったが、いまは様相が異なっているようだ。
物価高で生活が苦しくなった子連れのシングルマザーや月収15万円前後の正規雇用者なども列に加わるケースが増えている。なかには、都内のタワマンに住む男性やSE(システム・エンジニア)として働く正社員の男性などが節約のために炊き出しの列に並んでいることもあるという。
ちょっと前なら考えにくいが、いくら生活防衛のためとはいえ、タワマンの住人や安定的な収入があるはずの正社員までもが、恥も外聞もかなぐり捨てて並ばなければならなくなるほど、貧困化が進んでいると考えた方がよさそうだ。
これまで「上流」とはいかないまでも、ごく普通の「中流」と見られていた人たちが、貧困層の領域に立ち入るような「下流」にこぼれ落ちるケースが増えている。そうした傾向はコロナ前にも見られたが、コロナ、そしてウクライナ問題で世界的に加速したインフレが、「フツーの人たちの貧困化」をむき出しにした格好といえるだろう。
(了。前編から読む)
※須田慎一郎『一億総下流社会』(MdN新書)をもとに再構成