地震と豪雨、被る損害額が大きいのはどちらだろうか──。諸外国に比べて自然災害が頻発する災害大国・日本では、地震や水害による土砂災害の件数が増加傾向にある。
そして、スマホ保有率が上がったことにより、災害発生時に一般の人々がSNSで被害状況を発信する機会が増えたが、集積した情報をAI(人工知能)を使って精査し、救難や避難に役立てる技術も進化している。
そうした危機管理情報を収集・解析し、官公庁や自治体、民間企業、報道機関などに提供しているスペクティ社(東京都千代田区)が、2021年9月に発表したレポートが興味深い。それが「都道府県別の年間自然災害損害額」だ。スペクティ社・取締役COOの根来諭さんがこう語る。
「過去3年間(平成29~令和元年)に発生した自然災害による損害額の年平均を算出して、それを基に日本列島を色分けしたのが別掲の地図です。これを見ると、長野県・広島県・福岡県・福島県で年間700億円を超える損害があったことがわかります。続く北海道・宮城県が500億円超。最も少なかったのは青森県の約8億円でした」
経済損失を都道府県別に可視化することで、自然災害が地域に与えるダメージがより明確に感じられる。
「ただし、これは対象となる3年間のデータであって、抽出する時期によって結果は大きく異なってきます。わが国は全土に活断層がありますから、どの地方にも地震は起こり得る。また、南の洋上で発生した台風が通年で何回も日本列島を通過し、昨今では線状降水帯が各地で発生し、深刻な被害をもたらしています。いまやどこの地域が自然災害の対象になるかわからない。そういう時代になっています」(根来さん・以下同)
この年間自然災害損害額を各都道府県の人口で割ったのが、別掲のランキングだ。
「1人あたりの損害額が最も大きかったのが、長野県の4万9945円でした。これは、令和元年の台風19号によるものですが、同県の人口がそう多くないため、こうした数字になっています。対照的に、人口が多く、対象となる3年間で大災害のなかった東京都は57円にとどまりました」
なるほど、災害のレベルと人口の多寡によって、1人あたりの損害額が大きく変わるというわけだ。
「分母が大きい、つまり人口が多い都市部ほど、防災対策に充てる費用も多く捻出できるといえるでしょう。防災意識という観点から見ると、東日本大震災の爪痕がまだ残っている宮城県・福島県・岩手県は、意識が相当高い。また、震度7が2回続いた熊本地震が2016年に起こった熊本県など、直近で大きな被害を受けた地域はやはり意識が高い。
そのほか、南海トラフ地震への警戒感が強い高知県・静岡県も防災意識が高いです。静岡地方に行くと、特に海抜が低い地域で、避難所へ誘導する看板が多数立てられていて、地震や津波への意識の高さがうかがえます。また、日本海側の県は太平洋側に比べて相対的に津波の危険性が低い一方、雪害のリスクが圧倒的に高いという一面があります」