「コロナ禍」に「ウクライナ危機」も長引き、物価高や円安が加速。収入が増えないなか、「日本の貧困化」は待ったなしの状況なのか──。新刊『一億総下流社会』(MdN新書)を上梓した経済ジャーナリストの須田慎一郎氏は、「日本の貧困化をもたらしている主たる要因は、コロナやウクライナ問題だけではない。その裏にある『米国』の思惑、そして米国に従属してきた日本のスタンスこそが“貧しい国ニッポン”を加速させている」と分析する。どういうことか。須田氏が解説する。
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いま日本は「一億総下流社会」へと突入しようとしている──。コロナ禍で世界中の物流が混乱し、資源や食料などあらゆるモノが行き渡りづらくなり、そこにロシアのウクライナ侵攻が追い討ちをかけた。その結果、世界的な物価高が加速。とりわけ日本は「円安」にも見舞われ、ただでさえ国際的にモノの値段が上がるなか、輸入品の価格が上がるダブルパンチに見舞われている。
物価が上がっても収入が増えていれば家計は持ちこたえられるかもしれないが、そうはなっていない。OECD(経済協力開発機構)が算出する主要7か国(日本、米国、英国、ドイツ、フランス、イタリア、カナダ)に韓国を加えた平均実質賃金の推移をみると、2000年以降、米国をはじめ各国が右肩上がりで伸び続けている一方、日本とイタリアだけが低迷しており、2015年には韓国にも抜かれていることがわかる。
国税庁の「民間給与実態統計調査」をみても、日本のサラリーマンの平均年収は1992年に450万円台となって1997年に467万円をつけたが、その後は一度も1990年代の水準を上回ることなく推移している。
世界的な物価上昇に歯止めがかからないなか、日本の貧困化がどんどん進んでいることは明らかだろう。そして、日本だけが貧しくなっている大きな要因は、やはり「円安」であり、それをもたらしたのが利上げに踏み切った米国にあることは疑いようがない。米FRB(連邦準備制度理事会)がインフレ対策として金融引き締めを強化する一方、日銀が金融緩和を継続すれば、日米の金利差拡大は必至であり、円安基調はまだ続くとみた方がいいだろう。
日本で暮らす私たち日本人は、どうしても国内事情に目を向けがちだが、その背景や要因を探っていくと、さまざまな場面で「米国次第」であることがわかってくる。そして、それが「日本の貧困化」を加速させている大きな要因にもなっているのだ。
「横田空域」の存在が経済的に大きな損失に
振り返れば、日本は戦後一貫して、米国の意向に左右される米国の従属関係にあった。それが目に見えてわかるのが、沖縄の基地問題だろう。また、目には見えないものの、日本の首都の上空も米国に牛耳られていることをご存じだろうか。
「横田空域」である。これは東京西部の在日米軍横田基地を中心に、南北に最長約300km、東西に最長約120km、実に1都9県にも及ぶ広大な空域で、日本の領空であるにもかかわらず、在日米軍が航空管制を担っている。日本の首都の西側に広がる巨大な空域なのに、自国の飛行機が米軍の許可なしでは飛べない、まさに“見えない壁”が立ちはだかっている格好なのだ。