人は常に合理的な行動をとるとは限らず、時に説明のつかない行動に出るもの。そんな“ありのままの人間”が動かす経済や金融の実態を読み解くのが「行動経済学」だ。今起きている旬なニュースを切り取り、その背景や人々の心理を、行動経済学の第一人者である多摩大学特別招聘教授・真壁昭夫氏が解説するシリーズ「行動経済学で読み解く金融市場の今」。第41回は、不安定な世界情勢が続くなか、日米の株価動向について、分析する。
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コロナ禍にウクライナ危機も長引き、世界情勢は混迷が続く。為替市場でも24年ぶりの「1ドル=140円」を突破するなど異常事態が続くが、株価は比較的堅調といえるだろう。
これは市場関係者の間で、過去数年間の経験則に基づく楽観的な見方が勝っていることに起因しているのではないか。長い目でみると、株式市場はここ20年ほど「ゴルディロックス相場(緩やかな経済成長と低金利が続く適温相場)」が続いてきた。インフレ対策から米国をはじめ主要国では金融引き締めに舵を切ったとはいえ、まだ世界的にお金が余っている状況は大きく変わっていない。そうしたなかでは、「株価が下がったところで押し目買いすれば、また株価が反発して儲かるだろう」という見方が大勢を占めているようだ。
だが、9月にはFRB(連邦準備制度理事会)がQT(量的引き締め)のペースを月950億ドルに倍増させる。コップのなかからストローで吸い上げるペースを上げる以上、市中に溢れてきたマネーの流動性が低下するのは必至の情勢といえるだろう。
9月のQTを機に、株式市場への資金流入が減っていくようなら、好調が続いてきた米国株も1割程度の下落が想定される。NYダウでいえば、現在の3万1000ドルから2万8000ドルを割り込む展開も十分考えられる。
そうなると、これまで投資家の間で多用されてきた、下落基調のなかで一時的なリバウンドを狙う手法が通じなくなるかもしれない。
行動経済学でいえば、これまで株式市場では“株価は下がってもまた上がる”という「コントロール・イリュージョン」が働いてきた。それがFRBの推し進める金融引き締めによって、それまでのやり方が通用しなくなる「コントロールの欠如」に陥る可能性もあるのだ。