なぜ、こんなビジネスが横行しているかというと、かつて生活保護の不正受給が社会問題化したことで、“水際対策”として生活保護の申請をなかなか受け付けない時期があった。その結果、本当に必要な人にまで行き渡らなくなり、餓死者が出たりしたこともあって、再び条件を緩和。それによって「貧困ビジネス」が増え出した経緯がある。
実際、厚生労働省の統計によると、生活保護の申請件数は11年ぶりに増加に転じた2020年度に続き、2021年度も23万件近くにのぼり、2年連続で増加している。
山谷のアパートの家賃も横並び
同じような光景は、東京の「山谷」にも広がっている。東京の北西部、JR南千住駅から跨線橋を渡って駅の南側を進むと、「泪橋」の標識がかかる交差点が見えてくる。かつてボクシング漫画『あしたのジョー』で描かれた、あの「泪橋」である。その先にあるのが「山谷」だ。
最盛期には約220軒の簡易宿泊所に約1万5000人が身を寄せていたといわれるが、オイルショックやバブル崩壊を経て、日本が低成長時代に入ると、日雇い労働の需要も減少。山谷の住人の高齢化も進み、すでに2006年時点でピーク時の3分の1以下にまで減っているという。
足を踏み入れると、東京の他の街とは異なる雰囲気を目の当たりにする。まず都市部ならどこにでもありそうなコンビニの数が圧倒的に少ない。商店の看板もほとんど見当たらず、人通りもほとんどなく、世間から途絶された“ゴーストタウン”といった方がしっくりくる感じだ。
やけに静まり返った街を歩くと、やたら目に入ってくるのが、「ホテル○○」「旅館△△」などと小さな看板が掲げられた簡易宿泊所である。それらのドヤには「冷暖房完備」「カラーテレビ付」「個室3帖」などと掲げられ、宿泊代は判で押したように「一泊2250円」に統一されている。
なかにはアパートもあり、これまた家賃も「4万2000円」と横並びが目立つ。この金額は生活保護の住宅扶助の上限を超えないようになっているようで、大阪の西成と同様、生活保護受給者を対象とする「貧困ビジネス」の一端を垣間見ることができるのだ。