賃金が上がらないなか、物価ばかりが上昇し、日本はどんどん「貧しい国」になりつつある──。政財界から貧困の現場まで自ら足を運び「取材するYouTuber」の異名を持つ、経済ジャーナリストの須田慎一郎氏は、新刊『一億総下流社会』(MdN新書)で「日本の貧困化」の実態を掘り下げる。「貧困化」が行き着いた先には何があるのか。それを象徴するかのような、ドヤ街の「貧困ビジネス」の実態を須田氏がレポートする。
* * *
東京の「山谷」、横浜の「寿町」、大阪の「西成」は「日本三大ドヤ街」といわれる。ちなみに、「ドヤ」とは「宿(ヤド)」の逆さ言葉であり、日雇い労働者が身を寄せる簡易宿泊所が布団しか敷けないような小さな部屋だったことから、「人が住むところではない」と自嘲的に逆さまに読んだのが始まりとされる。そんな簡易宿泊所が多く建ち並ぶ地区を「ドヤ街」という。
そのひとつ「西成」では日雇い労働者が身を寄せる簡易宿泊所(ドヤ)が軒を連ねていたが、いまやそれらの多くは生活保護受給者向けの福祉住宅へと模様替えしている。
そこで横行しているのが「貧困ビジネス」である。西成の街を歩けば必ずといっていいほど目に入ってくるのが、「福祉の方 応相談」などと書かれた看板。高齢化で思うように働けなくなった元日雇い労働者が相談に行くと、元簡易宿泊所という看板を引っ提げている連中が、相談者を連れて役所の担当窓口に行き、生活保護の申請から支給までを一手に引き受ける。それが「貧困ビジネス」だ。
一見すると、生活困窮者に手を差し伸べる善意の人のようにも思えるが、生活保護で支給される金額の一切を管理するので、申請者本人の取り分はほとんどないのが実態である。
西成の福祉住宅の家賃はほぼ一律で、4万円ほどに設定されている。これは生活保護における住宅扶助の上限に合わせて揃えてあるためだ。貸主からしてみれば、生活保護として毎月決まった額が必ず入ってくるので取りっぱぐれがない。実に安定的な家賃収入が見込めるわけである。加えて、食事の提供などをすれば、その分も生活保護費から差し引いていくので、ドヤ街では効率のいい安定的なビジネスとして広まっているようだ。