激甚化する気象に予報が困難に
普通の台風であれば、熱帯海域で発生して南から北へ進み、偏西風によって西から東に流されていくもの。天気図でいうと下から時計回りにカーブを描くのがセオリーなのですが、ここ10年、そうした教科書通りにならない動きをする台風の発生頻度が高いように感じます。
たとえば2016年の台風10号は、日本の近くで発生して東から西へ進んだ後、沖縄付近で南へ下がって燃料補給。そこから強くなって引き返し、本州へと北上。日本の東へそれるかと思いきや、東から西へ逆走し、統計史上初めて岩手県に上陸。いわば“ブーメラン”のような軌道をたどりました。こうした「ブーメラン台風」を前もって予想するのは困難です。
「線状降水帯」も予想が困難なものひとつ。風が収束し、発達した積乱雲が、狭い範囲で大雨を長時間降らせ続けるのですが、その雨量は3時間で1か月分以上に及ぶときも。ゲリラ豪雨の発生地域のピンポイント予想と、どれだけ継続するかという予想の二重の難しさがあります。
忘れられないのは紀伊半島大水害
天気予報は、観測と科学的なデータに基づき、お伝えしています。決してオーバーに言っているわけではないんです。
天気予報をお伝えする意味は、災害からのリスクを減らしてもらうため。それでも近年、予想を上回る大雨などによって被害が発生し、気象予報士として毎年悔しい思いをしています。時に、過去の経験が当てはまらないことがあり、無力さを感じることもあります。
2011年の8月終わりから9月頭にかけて近畿地方に甚大な被害をもたらした、台風12号(紀伊半島大水害)は心に強く残っています。もともと紀伊半島は雨の多いところなのですが、このとき、1回の台風で東京や大阪に降る1年分の雨量(1300~1500mm)以上、2000mmを超える大雨が降りました。
当時、気象予報士になったばかりの自分は、台風本体が来る前からすでに500mm以上の雨が降っていて、さらに80mmという雨量予想が出てきたとき、正直「過去のデータを参考にすると、予想が強く出すぎているのではないか」と半信半疑でした。しかし実際は、それをはるかに上回る大雨が降り、山の岩盤ごと崩れる大規模な土砂災害が発生し、川の水がせき止められて、天然のダムができるなど、見たことのない景色を目の当たりに……。
それからは、どんなときでも予想を上回るような大雨があり得るということを常に頭の片隅に置き、気象情報を伝えるようにしています。とくに台風シーズンは誰かが災害に巻き込まれたり、大切な家や農作物が被害に遭われたりということが少しでもなくなるよう、祈りにも似た気持ちで本番に臨んでいます。