「自由度が高い」と本人たちが認識したかどうか
橋本:なるほど。……アメリカの老人ホームで実施された、こんな実験があります。そこには65~90才の入居者がいくつかのフロアに分かれて暮らしています。そのうちの2つのフロアを抽出し(たとえば、2階から20人、3階から20人を無作為に選び)、2グループに分けました。そして、Aグループの人たちには、一人ひとりに鉢植えを配り、「鉢植えの世話は看護師がしてくれますからね」と言い添えました。
また「木曜と金曜に映画を上映するので、どちらかの曜日に予定を組んで連絡します」と伝えました。さらに「ほかの階の入居者とおしゃべりしてもいいし、ラジオやテレビを楽しんでも構いません。皆さんの生活と健康は私たち職員が責任を持って管理します」とも言いました。一方、Bグループにはこう伝えました。「好きな鉢植えを選んで、自分でお世話なさってください」「映画の上映を木曜と金曜に行います。どちらの日に見ても構いません」「ほかの階の入居者とおしゃべりしてもいいし、ラジオやテレビを楽しんでも構いません。ここでの生活を楽しいものにするのは皆さんご自身です」と。
オバ記者:で、実際のお世話はまったく同等にしたわけね。
橋本:その通りです。そしたらどうなったと思います? 3週間後の調査では、選択の自由度が高いBグループの入居者の方が満足度が高く、健康状態も改善しました。そして、6か月後の調査では、Bグループの方が死亡率が低かったことまで判明したそうです。
オバ記者:あらま。
橋本:「自由度が高い」といっても、実際の世話や看護状況に差をつけたわけではないので、あくまでも「自由度が高い」と本人たちが認識したということなんですけどね。でも、結果に大きな開きが出たのです。先ほどお話ししたことと矛盾しそうですが、「物事をコントロールできる」という自信や満足感は寿命が延びるほどのエネルギーを与えてくれるんです。
オバ記者:植木とか映画とか、そんな些細なことなのにねぇ。
橋本:野原さんはギャンブル的な感覚をいまも大切にしていらっしゃるそうですが、少しでも自由な方向を選んで暮らしているように思います。過剰な安定や行きすぎた管理に縛られるくらいなら、リスクを感じた方がいい。リスクがある方がむしろ生き生きする面がある。それが「貯金ゼロでも幸せ」の秘訣なのではないでしょうか。
オバ記者:まぁ、うまくまとめてくれて、すみません。ありがとうございます(笑い)。
(了。第1回から読む)
【プロフィール】
橋本之克さん/マーケティング&ブランディングディレクター。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。著書は『9割の買い物は不要である』(秀和システム)など。オバ記者との対談は3回目となる。
「オバ記者」こと野原広子さん/空中ブランコや富士登山など体当たり取材でおなじみ。本誌『女性セブン』連載『いつも心にさざ波を!』も好評。笑顔の絶えない65才。
※女性セブン2022年10月13日号