人の行動は、必ずしも合理的にはいかないもの。そんな人間のありのままの姿に焦点を当て、人々の行動心理から経済活動を捉えたものが「行動経済学」だ。行動経済学に詳しいマーケティング&ブランディングディレクターの橋本之克さんによると、お金が絡むことで180度行動が変わることもあるという。一体どういうことなのか、女性セブンの名物ライター“オバ記者”こと野原広子さん(65才)が、橋本さんに聞いた。【全4回の第4回。第1回を読む】
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周りの目を気にしない“合理的な行動”は損
オバ記者:「出て行くお金」で思い出したんだけど、みんなで食事をしていて、そろそろ会計っていうタイミングを見計らって、「ちょっとトイレに行ってくるね」って姿を消して、お金を払わない人っているじゃないですか。
橋本さん:(笑い)たまにいますね。
オバ記者:男友達なんだけど、そんな陰口を叩かれる不名誉を考えたら、会計時に逃げるようにトイレに行くってことが信じられないよ。3000円や4000円と引き換えに「あいつ、またやった」なんて言われたくないよね。
橋本さん:普通はそうですよね。でも、先ほど「頭の中の財布」について話しましたけど、人それぞれ、「払わなきゃいけないもの」「払う必要がなければ払わずに済ませるもの」といった分類が頭の中でできているものなんです。その男性にとって食事会の費用は、「払う必要がなければ払わないもの」に属しているんでしょう。
オバ記者:固い意志があるとしか思えないくらい必ず姿を消すのよ。いい加減にしろと思って、あるときトイレから帰ってきたときに「1人4000円ね」って請求したんだよね。そしたら、「イヤ、おれ、酒飲んでないよ。ウーロン茶だよ」だって。「でもひとりで唐揚げほとんど食べちゃったじゃん」と指摘したら口をとがらせて、「じゃ1000円引いてね」だって。もう情けなくなるよ。グチを言われる方がよっぽど損しているって気づかないのかね。
橋本さん:「理由に基づく選択」という理論がありまして、自分なりに正当な理由があれば、人は行動するんです。たとえば別掲図のように100万円もする冷蔵庫があったとします。通常は「冷蔵庫にしては高すぎる」と思う。
でもそこに電子レンジ機能がついていたら(そんなことは実際にないでしょうが)、特別な機能があるのだから高くて当然だと思い込む。で、それなら100万円出しても惜しくない、手に入れたいという人が出てくるのです。周囲の人がどう思おうとも、その人が自分の考えや行動は正しいと思えれば、それを貫こうとするんです。