皿の欠損した部分を漆でくっつけて、天然素材の金粉を撒く。金色になった修復部分を何度も丁寧に磨くと、割れたはずの皿に新しい命が宿ったかのように生まれ変わった──。
東京・祖師ヶ谷大蔵の「M&I」は、室町時代から続く「金継ぎ」という修復技法を用いて、破損した陶磁器の復元修理を行う。代表の荒井勇さんが語る。
「美術工芸品やフィギュアを中心に、陶磁器や木製品、革製品などほぼ何でも直します。過去にはカーネル・サンダース人形のズボンの裾をシングルにしたり、靴のソールを厚くしてほしいとの依頼を受けたこともあります」
荒井さんが「修復士」になったのは、バラバラに割れた犬の置物がきっかけだった。
「清掃会社に勤めていたとき、依頼人宅の玄関にあった犬の置物を割ってしまったんです。どうしようかと焦っていたら、補修職人さんが何事もなかったかのように直してくれた。元通りになった犬の置物に感激して、自分もやってみようと思いました」(荒井さん・以下同)
補修職人のもとで修業した荒井さんは32才で独立し、2006年にM&Iを立ち上げる。駆け出しで依頼がない中、最初に舞い込んだ発注は陶器メーカー「リヤドロ」の割れた人形だった。破損部を接着剤で固定し、ヒビの隙間に合成樹脂を埋め込み、サンドペーパーで慎重に削った。細心の注意を払って作業を重ね、修理箇所がわからないように仕上げた。
「当時は千葉に店があり、鎌倉(神奈川)の依頼人宅まで交通費を計算すると大赤字でしたが、仕事をいただけたことがありがたく、懸命に作業しました。依頼人が“きれいに直ったね”と喜んでくださったときは本当にうれしかったものです。16年経ったいまでも忘れられない修理です」