9月下旬、東京・小金井市の児童館。20年以上前に購入したというファービー人形を、ドクターが「診断」する。
「モーターの固着が原因では?」
「いや、声が出ていない。スピーカーを確認しよう」
診断を終えたら次は治療だ。ドクターが手際よくスピーカーシステムに“メス”を入れると、ファービーはかわいらしい動きとしゃべりを取り戻した。
修理を依頼した70代の女性が満面の笑みで感謝する。
「孫が遊びに来たときに久しぶりに出したら動かなかったので持ってきました。直してもらえて感謝です。“ファービーと遊びたい”と言っていた孫の喜ぶ顔が楽しみです」
その日集まったのは、壊れたおもちゃを原則無料で修理するボランティア「日本おもちゃ病院協会」のメンバーだ。同協会の田中啓会長が語る。
「おもちゃ病院協会が設立されたのは1996年。現在は児童館など子供が集まる施設やリサイクルセンターなど全国に約640の病院があり、約1700名の会員が『おもちゃドクター』としておもちゃの修理を手掛けています」
よく持ち込まれるおもちゃはプラレールや電気仕掛けの人形、ラジコンなど。専門知識が求められる場合は、先輩ドクターが率先して対処する。ボランティアながら熱心なドクターが多く、技術は年々向上しているという。
小金井市のおもちゃ病院で院長を務める鈴木有一さん(71才)は元中学高校の数学教師だ。6年前の定年退職を機におもちゃドクターの研修を受けて活動を始めた。
「機械いじりが好きで孫のおもちゃを直したとき、たまたま出かけたショッピングセンターでおもちゃ病院を見かけて興味がわきました。現在は小金井市以外でも声がかかることがあり、月の半分はおもちゃドクターの活動をしています」(鈴木さん・以下同)