岸田文雄・首相は8月の「第2回GX実行会議」で、原子力発電の活用に前向きな姿勢を示した。首相は電力不足解消の手段として、今冬には最大9基の原発を再稼働することも表明しているが、経営コンサルタントの大前研一氏は、現状の政府主導の“いい加減な原発再稼働”に警鐘を鳴らす。再稼働する前に必要な、2011年3月11日の東日本大震災で起きた福島第一原発事故の「3つの総括」について、大前氏が解説する。
* * *
1つ目は「政府説明の嘘」である。福島第一原発を建設した際、政府は地元の地方自治体に対してどのような説明をしたのか、そのどこが虚偽だったのか、実態はどうだったのか、自治体との関係をどう直すのか、ということを明らかにしなければならない。
2つ目は「東京電力の嘘」である。当時、東京電力は事故の状況を毎日発表し、枝野幸男官房長官が鸚鵡返しで記者会見していたが、それは真実ではなかった。では、どこに嘘があったのか? 東京電力に聞くと「正直に発表していたのにマスコミが伝えてくれなかった」と言い訳した。しかし、それが本当だという証拠はなく、本当だとしても十分ではなかった。したがって、万一同様の事故が起きた時にどういう発表の仕方をするべきなのか、という総括が必要なのだ。
そして3つ目は「政府・自治体と地元住民とのコミュニケーション」である。政府・自治体と地元住民のコミュニケーションは適切に行なわれていたのか、住民の避難は何に基づいて判断したのか、という問題だ。適切でなかった場合は、その原因を追究し、適切なコミュニケーションのルールと判断基準を明確にした避難方法を定め、住民の安全を担保しなければならない。
私は福島第一原発事故の原因を独自調査した。当時の担当大臣でもあった細野豪志環境相に頼まれたからである。その報告書は200ページを超え、英文でも公表している。また、著書『原発再稼働「最後の条件」』(小学館/2012年)には写真や図も盛り込んで一般の人にもわかりやすくまとめた。その中では、津波による全電源喪失を想定していなかった“原子力ムラ(原発利権によって結ばれた政治家・企業・研究者の集団)”の傲慢と怠慢を指摘し、実施すべき安全対策や必要なアクシデント・マネジメント(事故対応)体制などを提言している。