物価は上昇、年金は下降
では、45年に延長されると具体的にどんなデメリットが生じるのか。北村氏の協力でシミュレーションした。まず保険料の支払総額が増える。
現在、国民年金保険料は月額1万6590円、納付期間が60歳から65歳に延長されると、5年分でざっと100万円を余分に支払わなければならない。さらに、60歳定年リタイア組の場合、妻が「第3号被保険者」から外れるため、夫婦で2倍負担することになる(同い年の夫婦のケース)。
その代わりに年金受給額は増える。国民年金は保険料の支払期間が1年増えると年間の受給額が約2万円多くなる。
国民年金に40年間加入した人の年金額(満額)は現在月額約6万4800円(年間77万7800円)。これが45年加入となれば、年金額は5年分の約10万円が上乗せされて月額約7万3150円(年間87万7800円)になる。計算上、10年間年金を受給すれば、保険料の負担増100万円は取り戻せる。
保険料を多く取られても、年金も増えるのであれば悪い面だけではないように思える。だが、北村氏はそこに“落とし穴”があるという。
「年金の保険料は物価・賃金の上昇率に連動して値上げされるのに対して、年金受給額はマクロ経済スライドという仕組みで物価が上がると目減りする。大雑把にいうと、物価が2%上昇すれば保険料は2%値上げされるが、年金額は1%しか増えない。それが10年続けば保険料の支払額が20%超も増えるのに、もらえる年金は10%程度しか増えない詐欺みたいなことが起こるわけです。
そのため、現実的には、国民年金の加入期間延長によって保険料支払いが増えた分を年金増額で取り戻すには10年では足りない」
国民年金加入期間が45年に延長された場合、「将来の保険料値上げと受給額の目減りを加味して考えると、仮に国民年金保険料を65歳まで支払い、その後すぐに65歳から年金を受給しても、元を取る(支払った保険料の総額と受け取る年金総額が同額になる)には78歳までかかると考えたほうがいい」(北村氏)という。
年金が増えるよりも、保険料の納付が長くなるマイナスのほうが大きいということだ。
※週刊ポスト2022年11月4日号