大前研一「ビジネス新大陸」の歩き方

岸田政権が注力する「リスキリングで資格取得」の時代錯誤 本来学ぶべきスキルとは

いま学ぶべきスキルとは?

 なぜ、そういうお粗末な状況になっているのか? 私が提唱している「第4の波」を、政府が理解していないからだ。友人だった故アルビン・トフラー氏は「農業革命」、「産業革命」に続く、「第3の波」の「情報革命」で脱工業化社会になると主張した。その次の「AI・スマホ革命」が「第4の波」である。ところが、今の日本は「第3の波」にすら乗れていない。

 たとえば私は先日、久しぶりにオーストラリアへ行ったが、ビザの申請はパソコンではなくスマホベースになっていた。IT先進国のイスラエルやシンガポールの行政手続きは基本的にすべてスマホベースである。

 かたや日本は入国者健康居所確認アプリ「MySOS」こそスマホベースだが、それ以外はほとんど“なんちゃってデジタル”だ。その象徴が、スマホベースなのに全く使い物にならなかった新型コロナウイルス接触確認アプリ「COCOA(ココア)」である。

 そして「第4の波」の一大特徴は、前述したエストニアの会計士や税理士のように、知識を記憶した者に与えられる「資格」は意味がなくなるということだ。この最新潮流を政府が理解しなければ、日本は「第4の波」に入ることができないのだ。

 となると、個人が本来学ぶべきスキルは、たとえば営業支援や受注管理、在庫管理、請求管理といった定型的な間接業務をロボットで自動化する「RPA」だ。そのエキスパートになれば、労働生産性の向上=間接業務の合理化(人員削減)が至上命題となっている日本企業から引く手あまたになることは間違いない。

 あるいは、AIベース・スマホベースの新しい事業を構想する力。これは相当なデジタルスキルが必要となるが、この力を身につければ「第4の波」を乗りこなすことができるだろう。

 逆に、AIにはできない看護や介護、保育、カウンセリングといった“人間にしかやれない仕事”は今後も必要とされる数少ない資格であり、それらの業界の人材マッチングの精度を高めるスキルも要注目だ。

 そうした認識が何もない岸田首相は、いずれAIやコンピューターに取って代わられる20世紀型の記憶に頼るリスキリング支援のために莫大な税金を費消しようとしているわけである。

 生産性が上がらずに「稼ぐ力」がなくなっている理由を理解せず、自分たちが通した古い法律のおかげで首の皮一枚でつながっている資格などに多くの人を追い込むというのは暴挙でさえある。そんな政府の下では、国民の給料が上がらないのも必然と言うしかない。

【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『大前研一 世界の潮流2022-23スペシャル』(プレジデント社刊)など著書多数。

※週刊ポスト2022年11月4日号

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