新型コロナウイルス、ウクライナ戦争、そして円安などの影響で、物価上昇局面が続いているが、現在の日本の物価高には諸外国と異なる点がある。物価ばかりが上がり、賃金は上がっていないことだ。アセットマネジメントOneのシニアエコノミスト、村上尚己さんが言う。
「物価だけが上がって賃金は上がっていないのは、世界でも日本だけです。アメリカはコロナ後の経済復調で失業者が減り、深刻な人手不足に対応するため、賃金を上げました。一方、日本はアメリカと比べると、人手不足の度合いが低い。このため、賃金に不満があっても“会社を辞める”という選択肢を持つことは、若者を除いて少ない。そして、デフレの時代が長かったことから、企業側も賃金を上げないのがふつうになっているのです」
国税庁の民間給与実態統計調査によると、日本のサラリーマンの平均年収は1997年の467万円をピークに、その後一度もこの額を上回っていない。
「日本は30年近く賃金が上がらない異常な国です。日本企業の99.7%は中小企業で、そのうち70%が赤字。そこで働く従業員数は日本全体の60%を占めます。賃金を上げられる余裕のある企業はごく一握りなのが実態です」(岡山さん)
いま、物価上昇率は数字上、3%近くになっているが、日銀が10月13日に発表した「生活意識に関するアンケート調査」では、生活者が感じる物価の上昇率は10%だ。統計上の3%近い数字とは、あまりにも大きく開いている。また、企業間で取引されるモノの値段を示す「企業物価指数」も、9月の時点で前年同月から9.7%も上昇している。
「企業間での物価高に比べて小売価格が抑えられているのは、ひとえにメーカーや流通、小売店などの企業努力で、本格的な値上げが先送りされているからです。しかし、努力には限界がある。価格転嫁できずに倒産する前に、値上げを断行するしかない。あらゆる商品で、もう一段階の値上げは覚悟しなければならないでしょう」(浅井さん)
「日本の物価上昇率は3%近いが、実は海外の先進国の上昇率は、軒並み7~10%程度。日本は長い間デフレが続いていたため、3%の物価上昇は大きな痛手。ただ、諸外国から見れば“たった3%の物価高”で悲鳴を上げていることになります」(飯田さん・以下同)