「こちらとしても税金を払いたくないわけではないですし、隠す物もありません。だから職員の方を家に入れて、こちらから積極的に情報を開示していきました」
通常使っている銀行口座などを開示し、現金で手元に残っているへそくりまでも見せたという。職員も渡された書類や口座の残高などを確認し、1時間ほどで帰っていった。結果として、税務署はハズレ馬券を必要経費として認めることはなく、過去5年分の払い戻しに対して延期分の利息を含め「マンションが買えるくらい」(じゃい)の追徴課税があったという。妻や親に借金して納税は済ませたが、今年6月10日になり、国税に対して不服申し立てを行った。
「これについても別にお金を返してほしいというわけではないんです。すでに馬券を買ったときに実質的な税金(国庫納付金)を国に納めているのに、当たった後にまた税金を課すのは二重課税ではないかと思っての問題提起です。訪問してきた税務署の職員も『僕も(課税は)理不尽だとは思うんですけれどね……』とつぶやいていましたし、法律ではそうなっていたとしても納得できない部分があります」
「未来の競馬税制を考える会」を設立予定
当たり馬券への課税が「二重課税ではないか」という指摘は以前からされている。馬券は購入金額の75%が払戻金に充てられ、残りの25%のうち10%が国庫納付金として国に納付され、15%がJRA(日本中央競馬会)の運営費に充てられる。競馬ファンは馬券を買った時点で国庫納付金という形で事実上の税金を納めている形になる。しかし現状では、年間50万円以上の払い戻しを受けた場合には、改めて申告して納税する必要がある。競馬での年間トータル収支がマイナスとなっていても、税金の支払い義務が生じるのが現行の制度だ。
「こうした制度上の問題から、馬券を買うのを控えているという人もいます。いつも損しているのに、当たった時だけ高額の課税をされるのではたまったものではないと。課税問題をクリアにすれば競馬ファンも安心して遊べるだけでなく、JRAとしても大口の参加者が増えて売り上げ増につながる。双方が良くなる制度に変えていけないかと思っています」
こうした訴えは政治も動かしつつあるという。税制に疑問を持った都議会議員や国会議員がじゃいに意見交換を求め、競馬界の内部からも『よくぞ言ってくれた』と激励を受けたという。そんな活動がスタートした直後の8月、思いがけず9000万円の馬券が当たってしまったのだから、その的中を素直に喜べないのは当然だ。
「最初は公表するかも迷ったんです。でも、こうした形で借金を返すのも自分らしいなと思って、公表することにしました。もはや自分のお金がどうこうとか、そんなものはもうどうでもいいんですよ。競馬のおかげで番組に出演して予想できたりもしたので、競馬界がしぼんでいく姿を見たくない。そうならないための改革だと思っています」