トランプ氏は大統領時代に「金利を下げろ」と要求
大手銀行バンク・オブ・アメリカのエコノミストであるR氏にフレッチャーさんの話をすると、苦笑いしてこう語った。
「今のドル高円安は、FRB(米連邦準備制度理事会)と日銀の金融政策の違いで生じている。FRBは『家計や企業に痛みをもたらしても、インフレ抑止を優先する』というスタンスであり、日銀は『持続的な金融緩和を行う以外に選択肢はない』という立場だ。そして、中央銀行の政策にはバイデン大統領も岸田首相も口出しはできない。共和党が勝ってトランプが復権したとしても何も起こらないだろう」
R氏の意見は教科書通りでごもっともだが、実際は政治が金融政策に全く関係ないとも言い切れない。中間選挙で苦戦する民主党の候補者からは、連日のようにジェローム・パウエルFRB議長に対して、「金利上昇と景気後退で国民が苦しんでいる。利上げを止めるべきだ」という嘆願が殺到しているが、パウエル氏は「インフレが止まるまで利上げは継続する」と突っぱねている。「FRBは政治からは独立した機関だと承知している」と釘を刺して、けんもほろろだ。
しかし、トランプ氏が大統領だった頃には少し雰囲気が違った。同氏はパウエル氏に対して公然と「金利を下げろ」と要求し、実際にFRBは利下げ、金融緩和を進めていた。パウエル氏はれっきとした共和党員であり、議長に指名したのはトランプ氏だ。当時からパウエル氏は利上げ論者だったとされるが、トランプ政権では景気を優先して思う政策を実行できなかったのだろう。では、トランプ共和党が勝てば、フレッチャーさんの言うように「日本人にいいようにやってくれる」のかというと、そうもいかなそうだ。
良くも悪くも常識人のバイデン大統領は、FRBの独立性を尊重すると繰り返している。パウエル氏にとっては利上げに障害はない。トランプ氏や共和党にとっても、今はFRBを批判する必要がない。多数を握る下院でバイデン政権の失政を批判し続けるためにも、景気悪化は自分たちに有利だからだ。米政界のカレンダーを見れば、中間選挙が終わっても「ドル高・円安」が越年して続くことは間違いなさそうだ。
レポート/高濱賛(在米ジャーナリスト)