乗ればわかる、優しい乗り心地
久方ぶりのビッグシトロエンは発進や加速時にはリアの沈み込みをいい塩梅に抑え込みながら、クルマ全体がふっと浮き上がるような感覚を伴いながら加速していきます。なんとも不思議な感覚の加速感です。その先に待ち受けている路面のうねりをいとも簡単にいなし、そしてコーナリングでは左右に大きく傾くことを絶妙なる制御によって、あくまでもフラットを保ちながらC5 Xは駆け抜けていくのです。
この乗り味を楽しめたのは「プログレッシブハイドローリッククッション(PHC)」という、ハイドロが持っていた乗り心地を、現代の手法によって再現したシステムが導入されていたからなのです。ある意味「電子的に再現されたハイドロ」ということができるかもしれません。ハイドロの味を知った人にとってみれば、揺れ方の周波数というか、波の形は違っていても、硬い方向にシフトしている最近の新型車に比べると、かなりソフトでふんわりした乗り味なのです。これはクルマにそれほど詳しくない人が乗っても、すぐに感じ取れる感覚だと思います。
よく「乗ってみれば良さが分かります」というセールストークを耳にしますが、C5 Xであれば、明確にライバルとの差を感じ取ることができるはずです。エンジンをスタートさせ、走り出してから終始、このなんともふんわりとした優しい乗り味に包まれながらドライブが続きます。同乗の人たちも穏やかに過ごせますし、ステアリングを握る人も気が付くと優しい気持ちになっているのです。この不思議な感覚はこれまで味わってきたビッグシトロエンの持ち味に通じるものを感じました。
独特の優しさに包まれた走りはサスペンションだけで実現しているものではありません。C5 Xのホイールベースは2,785mmと長めで、居住性の良さも実現しています。特にリアシートの足元のスペースはゆとりがあり、ゆったりと寛げるのです。なだらかなルーフラインは、デザイン上の特徴というだけでなく、キャビンのゆったり感を実現するためのものでもありました。
一般的にサルーンというとトランクとキャビンは分割されることが多いのですが、C5 Xは大きく開くリアゲート持ったワゴンのようなしつらえになっています。荷室の使い勝手から見れば、5人乗車時には545Lであり、リアのシートバックを前方に倒すと1640Lという広々としたスペースが作り出せます。「荷物と一緒に乗るのはイヤだ」などという人も今は多くないと思います。まさに高い実用性を持ち合わせたプレミアムカーということになります。このサルーンでもあり、SUVでもあり、ワゴンでもあるという性格をちょうどいい塩梅であわせ持つことからも、クロスオーバーを意味する「X」の文字がモデル名に与えられたのだと思います。