複雑な現代社会では、善意でやった行いが裏目に出ることもある。たとえば、怪我をした迷子犬を助けて、飼い主に治療費を請求したのに拒否されてしまった──。そんなことが起きたらどうすればいいのか。弁護士の竹下正己氏が実際の相談に回答する形で解説する。
【相談】
先日、自宅の前で迷子犬がひき逃げされました。知り合いの獣医にお願いし、手術をして助かりました。本来手術代は30万円とのことでしたが半額にしてくれ、私が支払いました。手を尽くして飼い主を捜し、3か月後にやっと見つかったので、手術代の支払いをお願いしたところ、「頼んだわけではないので支払えない」と言われました。私の払い損になってしまうのですか。こんな飼い主に犬を返したくありませんが、どうしたらいいですか。(千葉県・50才・主婦)
【回答】
ひき逃げされた犬の発見者は、動物愛護管理法により、役所に届け出る努力義務を負いますが、治療を受けさせる義務はありません。本来その飼い主が対処することです。
義務がないのに、他人のために事務を行うことを「事務管理」といい、民法で「事務管理を始めた者は、その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理をしなければならない」と定めています。つまり、あなたは飼い主の利益を考えて、その事務として犬の世話をすべき立場になったのです。
犬の飼い主は動物愛護管理法に基づき、環境大臣が定めた「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準」に従って、飼い犬を適正に飼養することにより、健康及び安全を保持するように努める義務があります。
その基準の中には、犬が病気になったり、けがをしたら、原則として獣医師により速やかに適切な措置が講じられるようにすることが求められています。そして、適切な保護をしないと動物の虐待として処罰される可能性もあります。ですから、その迷い犬を治療してもらったことは、過剰な診療である場合を除いて、飼い主の利益に適合する管理方法といえます。