事務管理を始めたら遅滞なく本人に通知しなければなりませんが、飼い主が見つかってすぐ通知したのであれば問題ありません。事務管理の結果、他人のために有益な費用を出したときは、その返済(償還)を求めることができます(有益費償還請求権)。
これに対し、本人は頼んでいないことを理由に支払いを拒否できません。命を助けた手術費用は有益な費用ですから、あなたは飼い主に手術費用の支払いを請求できます。
いまは犬を返したくないということですが、飼い主のものですから無理な主張です。しかし他人のものの占有者が、そのものに関して生じた債権を有しているときは、その債権の弁済を受けるまで持ち続けることができる「留置権」という権利を取得します。
犬の手術費用の償還を求める請求権は、犬に関して発生した債権ということができます。そこで、飼い主が手術代を支払わない限り、留置権に基づき、あなたはこのままその犬を飼い続けることができます。しかし、償還請求権が5年の時効で消滅すると留置権はなくなるので、時効完成を防ぐため裁判などの手続きが必要となり面倒です。飼い主の犬への愛着の程度も疑問ですから、手術代に代えて譲ってくれるよう穏やかに交渉してはいかがですか。
【プロフィール】
竹下正己/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。射手座・B型。
※女性セブン2022年11月24日号