こうして、看護師であると同時に保健師にもなった前田さんは、卒業後は奨学金返済が免除になる指定施設のひとつであり、かつて通っていた短大の附属病院に就職する。ただ、これが彼女にとってあまり良い選択とはならなかった。
「大学病院というのが本当に自分には合いませんでした。監督者にも『自分の身の丈に合うような、もっと小さな病院で働いたほうがいい』と言われる始末でした。だけど、奨学金返済免除の条件は『200床以上の病院で5年間働くこと』だったので、5年間働かないと120万円を自費で返さなければなりません。だから、辞めたくても辞めるわけにはいかなかったんです……」
ネットワークビジネスにハマり病院も辞める
奨学金が、仕事を辞めたくても辞められなくする、いわば枷のようになってしまったわけだが、ここから話は思わぬ方向に急展開する。
「あるとき、同じ寮に住む短大時代の同級生が『お部屋でケーキ焼いてみたよ』と、手作りのケーキを持ってきてくれたんです。そんなに仲良しでもない子でしたが、とてもおいしかったので詳しく聞いてみたら『週末にこのお鍋を使って料理パーティをするんだけど、あなたも来る?』と。それで、行ってみたらネットワークビジネスでした……。ただ、世間知らずだった私は素直にすごいと思ってしまい、『素晴らしい仲間ができて、権利収入ももらえるんだったら、今の嫌な仕事を辞められるし、奨学金も返せるじゃん!』と、思っちゃったんですよね」
その後、友人に感化される形で前田さんは積極的な勧誘活動を開始するのだが、当然ながら良い方向には運ばない。寝不足になり、遅刻も繰り返し、とうとう職場にもネットワークビジネスがバレてしまう。結局、大学病院を2年半で退職し、親にも勘当されてしまったという。
住んでいた寮も出て行かざるを得なくなり、前田さんは近所の総合病院でアルバイトとして働くことになるが、奨学金返済はどうなったのだろうか?