【5】消えないエリート意識
そして東芝の再建を阻む最大の要素は社員のエリート意識だ。国に守られた特権的な地位にある東芝の社員には「自分たちは特別な会社だ」という意識がある。かつてJALや日産の社員もそうだったが、稲盛氏やゴーン氏といったカリスマ経営者が乗り込んで、伸びた鼻をへし折った。稲盛氏は生前、JAL再生についてこう語っている。
「私が乗り込んだ時、高学歴なJALの役員たちは、エアラインのビジネスは自分たちが一番よくわかっている、工場上がりの老人にとやかく言われる筋合いはない、という体で、全く話を聞こうとしなかった」
しかし稲盛氏が「JALという会社は何のために存在するのか。世のため人のためではないのか」と諄々と説くうちに、役員たちは「自分たちのやり方が間違っていたのではないか」と思い至るようになった。
残念ながら「会社が買われる」という段になっても、かつてのJAL社員のような「覚醒」が見られない。自分たちは特別な会社だからと大半の役員、社員は考えている。彼らがぬるま湯に浸かっている間に、東芝は緩やかな死へ向かっていく。
(了。第1回から読む)
【プロフィール】
大西康之(おおにし・やすゆき)/1965年生まれ、愛知県出身。ジャーナリスト。日本経済新聞編集員、日経ビジネス編集委員などを経て2016年に独立。『東芝 原子力敗戦』(文藝春秋)『起業の天才! 江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』(東洋経済新報社)など著書多数。
※週刊ポスト2022年12月2日号