カギを握る来年の住民投票
さらにスナク政権を待っているのは「イギリス連合王国(UK)【※】崩壊」の危機だ。
【※イギリス連合王国(UK)/イギリスは18世紀以降、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドが合併して成立。正式名称は、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国(United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)】
スコットランドでは来年10月、独立の是非を問う2度目の住民投票が行なわれる予定だ。前回の住民投票では、まだイギリスがEUに加盟していたから、仮にスコットランドが独立しても、イギリスが反対してEUに加盟できなくなる可能性があった。結果、独立反対派が勝利した。しかし、今はイギリスがEUを離脱してその“拒否権”がなくなったので、独立賛成派が優勢になっているのだ。スコットランドが独立すればウェールズも後に続くだろう。北アイルランドも独立し、アイルランドと合併するに違いない。私はブレグジットの日、BBC(イギリス放送協会)の番組に出演し、イギリス連合王国は崩壊して「イングランド・アローン」になると予言したが、それが現実のものになるかもしれないのだ。
この危機的状況を脱するためには、イギリスがEUに再加盟するしかないが、それは明治維新後に江戸時代へ戻るようなものだから容易ではない。加盟国も“出戻り”に反対するだろう。
イギリスの混乱は、日本にとって他人事ではない。日本はアベノミクス以降、政権と中央銀行が一緒になって財源の裏付けがないバラ撒きを続けている。岸田政権は総合経済対策のために約29兆円もの第2次補正予算案を閣議決定し、日本銀行も金融政策決定会合で政府と歩調を合わせるかのように「異次元金融緩和」の継続を決めた。
前述したようにイギリスはトラス前首相が大型減税策を打ち出しても、イングランド銀行が財政規律を重視しているため歯止めがかかった。一方の日本は日銀が歯止めをかけるどころか、野放図に紙幣を印刷し続ける政府の片棒を担いで国債の発行残高の半分を保有するという異例の状況になっている。9~10月には総額9兆1881億円の為替介入も行なった。それでも日本経済は低迷から抜け出せず、円安も続いている。完全な官製相場【※】で金融市場のアラート(警報)が鳴らないからだ。
【※官製相場/政府の財政政策や中央銀行の金融政策、公的金融機関の大規模な取引が相場を主導すること】
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『大前研一 世界の潮流2022-23スペシャル』(プレジデント社刊)など著書多数。
※週刊ポスト2022年12月2日号