岸田政権は足下の物価高や景気回復支援のため、ガソリン・電気・ガス料金の補助金支給など、新たな総合経済対策を打ち出しているが、経営コンサルタントの大前研一氏は「岸田政権の安易な補助金のバラ撒き」に警鐘を鳴らす。岸田政権の経済対策の問題点について、大前氏が解説する。
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前号(週刊ポスト2022年11月11日号)では、長期低迷を続ける日本が参考にすべきは、2000年代初頭にドイツのゲアハルト・シュレーダー首相が断行した構造改革「アジェンダ2010」である、と指摘した。個人のリスキリング(成長分野に移動するための学び直し)支援に「5年間で1兆円」を投じると発表した岸田文雄政権は「アジェンダ2010」を参考にしてにじり寄っているフシもあるが、その中身は月とスッポンだ。
シュレーダー改革は、古いスキルしかなくて陳腐化した不要人員や余剰人員を企業が解雇することを容認して労働市場の柔軟性を高め、失業手当の給付期間も短縮した。その代わり、失業者には国が責任を持って新しいスキルを身につけるための再トレーニングを行なった。結果、ドイツ企業は労働生産性が上がって競争力を回復したのである。
ところが、岸田政権は日本企業の労働生産性が低いのに「賃上げしろ」と大号令をかけ、その一方で失業率を上げないよう「雇用を守れ」と言っている。
しかし、労働生産性が低いまま賃上げして雇用を守ったら、企業はつぶれてしまう。まさに“二律背反”だ。労働生産性を上げたら労働力が余るのは必然だから、不要人員や余剰人員の再雇用について政府が責任を持たなければ、企業は本気で労働生産性の改善に取り組むことができない。
しかも、岸田政権は税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、中小企業診断士など、いずれAI(人工知能)やコンピューターに取って代わられる古い「サムライビジネス(士業)」の資格取得を後押しするために1兆円もの税金を注ぎ込もうとしている。これらは20世紀に“プロフェッショナル”と呼ばれてもてはやされた職業だが、21世紀では淘汰されることが明らかなのだ。
つまり、シュレーダー改革とは逆のことをやっているわけで、「アジェンダ2010」の本質を全く理解していないのである。