怖くて緩和をやめられない?
日本経済を再生するためには、本連載で何度も指摘しているように、まず金利を引き上げねばならない。個人金融資産が2000兆円を超えているのだから、金利が上がれば利息が増えて消費マインドが刺激される。個人金融資産の多くは高齢者が保有しているので、利息が増えて心に余裕ができた彼らがお金を使うようになれば、GDP(国内総生産)の6割近くを占める個人消費が上向いて「成長と消費の好循環」が生まれ、いわゆる「老後2000万円問題」も解消するだろう。
だが今は、マイナス金利で個人金融資産が増えないため、老いも若きも将来に対する不安を感じて財布の紐を固く締めている。
しかも、政府が「人生100年時代」と不安を煽り、国民年金保険料の支払い期間を現在の60歳から65歳までに引き延ばす可能性もちらつかせているから、財布の紐は緩まず、今後も個人金融資産は塩漬け状態が続くことになる。
なぜ黒田総裁は円安が続いてインフレ率が3%台になっても円安促進の異次元金融緩和をやめないのか? 自分が引き起こした“地獄”から抜け出す方法(出口戦略)がわからず、それを考えるのも言うのも怖いからだと思う。異次元金融緩和をやめたら自分の人生を否定することになるので、その勇気がないのだろう。
だが、黒田総裁は来年4月に退任する。次の総裁は異次元金融緩和を軌道修正し、欧米同様に金利を引き上げざるを得ない。となれば、国債の発行残高の半分を抱え込んでいる日銀がインプロージョン(内部爆発)を起こす可能性も高まる。さらに、日銀による財政ファイナンス(※政府が発行した国債を中央銀行が通貨を増発して直接引き受けること)で野放図に借金をしてきた政府は、その途端に手詰まりとなる。異次元金融緩和という“麻薬”が切れた後の日本は、激痛に苦しむしかない。
円安に歯止めをかけるための為替介入に際して、鈴木俊一財務相は「投機筋と厳しく対峙している」と述べたが、最も投機的なのは円安に札を張り続けている日銀である。バカにつける薬はないのだ。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『大前研一 世界の潮流2022-23スペシャル』(プレジデント社刊)など著書多数。
※週刊ポスト2022年12月9日号