先代が2代目を盛り立てるしかない
この話は若干ドラマ仕立てになってはいるものの、現実問題として2代目が置かれているのは厳しい環境だろうな、と思います。私が出会ったステーキ店の2代目も、SNS映えする演出をしたり、トークを楽しんでもらったり、その空間にいることをエンタメ化することで先代が築いてきたものと差別化したのでしょう。店は繁盛しています。自動車ディーラーの2代目は、地元の若手経営者と密接な関係を築いたり、イベントの協賛をするなどし、事業を拡大しました。
先日、とあるアウトドア事業者から、「そろそろ2代目に譲ろうかと思っている」という話をされました。彼はこう言いました。
「私は本業はもとより、環境問題にも取り組んできた。その結果、多くのメディアから取材を受けてきた。息子に継いでもらいたいのだが、メディアの人々はいまだに私からのコメントを欲しがっている。本当は息子を前面に立てたいのだが……」
キャリアの長さは歴然ですが、こうなると先代が2代目を盛り立てるしかないのではないでしょうか。その際にどうすればいいか。『美味しんぼ』方式でいえば「本業はしっかりやりつつ、それ以外の部分に少し変化を加える」であり、ディーラーの件でいえば「まったく新しいことに挑戦する」となります。
とにかく2代目は、古参の顧客や古くからいる社員から厳しい目で見られがちですが、先代の残した財産を利用する形で、臆することなく、自分のやり方で事業に邁進してもらいたいものです。ここで私が頭に思い浮かべるのは、トヨタ自動車の豊田章男氏です。2代目ではないですが(11代目)、52歳の若さであの巨大企業の社長に就任。久々の創業家出身社長の就任とあり、当時は「ボンボン」扱いされた側面もあったかもしれませんが、同氏の社長就任以降、トヨタは生産台数世界一を達成するなどしました。
「オレは親父とは違う……」などと悩む2代目の方は「オレ流でいく!」とぜひ開き直ってください。そして、社員や顧客もいちいち先代と比較しないで長い目で見てあげてほしいものです。
【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は『よくも言ってくれたよな』(新潮新書)。