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岸田首相が「新しい資本主義」で脱却目指す「新自由主義」とは何か? 「市場を信頼する」是非を考える

 さてもうひとつの理由のほうがだんぜん深刻だ。ほったらかしがよい(政府の積極的介入政策は有害に決まっている)という結論が、それを導き出したロバート・ルーカスの思惑をも超えて、ある人たちにとって都合のいいものだったからではないか、と僕は疑っている。つまり、規制を緩和し、公共財を私有財産に転化し、貧しい人が貧困で苦しんでいるのは自己責任だと無視し、グローバリゼーションを加速して金融カジノで大儲けする人たちにとって都合のよい結論が出たので、これはなんとしてでも正論として盛り上げようとその一派が団結したのではなかろうか。

「経済学の目的」を問う

 となると、経済学の目的っていったいなんだという疑問も湧いてくる。経済学の研究対象は資本主義だ。ならば、(資本主義に引導を渡そうとしたマルクス経済学はいったん横に置くとすると)経済学の目的は、なるべく多くの人々が幸せになるような資本主義社会の実現に向けて理論を構築することではないか(と言ったら鼻で笑われたことがあるけれど)。

 さて、僕は経済について考えるときには借金(負債)ということをいつも頭の片隅に置くようにしている。なぜなら経済の中心はお金(貨幣)であり、お金とは借金(負債)だからだ。主流派経済学の「ほったらかしにしておけば、やがて収まるべきところに収まる」という市場原理主義がなぜおかしいのか。それは貨幣論に行き着く。

 以前、記事で書いたように(マネーポストWEB掲載〈簡単に答えられない「お金とは何か」問題 「物々交換から発展」の通説に隠された禍々しい本質〉)、貨幣とは借金(負債)である。ならば、借金には当然「貸し倒れのリスク」というものがある。つまり不確実性があるということだ。しかし、主流派経済学の理論には不確実性が組み込まれておらず、むしろ不確実性を数学や統計学を駆使して必死で消去しようとしている。

 さらに、レバレッジを効かせまくっている現在の資本主義は、借金が経済全体に占める割合がとてつもなく膨らんでもいる。これは高い竹馬に乗ってすごい速さで歩いているようなものだ。大きなストライドでグイグイ歩いて行けると同時に、ちょっとしたことでバランスを失って転倒し、大怪我をする。

 もちろん、銀行の誕生があってこそ生まれてきた資本主義は、借金抜きでは成立しない。ただ、「新しい資本主義」を目指すのなら、借金について多方面から再考するところからはじめたほうがよいのではないか、という気がしてならない。

【プロフィール】
榎本憲男(えのもと・のりお)/1959年和歌山県生まれ。映画会社に勤務後、2010年退社。2011年『見えないほどの遠くの空を』で小説家デビュー。2018年異色の警察小説『巡査長 真行寺弘道』を刊行し、以降シリーズ化。『DASPA 吉良大介』シリーズも注目を集めている。近刊に真行寺シリーズのスピンオフ作品『マネーの魔術師 ハッカー黒木の告白』、『相棒はJK』シリーズの『テロリストにも愛を』など。近刊に『アクション 捜査一課 刈谷杏奈の事件簿』がある。2015年に発表され話題となった、3.11後の福島の帰宅困難地域に新しい経済圏を作る小説『エアー2.0』の続編『エアー3.0』は、小学館発行の文芸誌『STORY BOX』1月号より短期集中掲載される。

  

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