シニア世代にとって「百貨店」は心が満たされる場所
旅行は体調が続くか心配で無理。ショッピングモールは家族連れが多く、場所も広すぎて不安が多い……ということもあるだろうが、百貨店はシニア世代にとってほどよく心が満たされる場所のようだ。
なにより、若かりし日を過ごした高度成長期、彼女たちにとって、百貨店は憧れのすべてが詰まっていた場所だった。最新モードの服、少し高めのレストラン。屋上に行けば小さな遊園地まであり、スターのイベントもよくあった。デパ地下でお惣菜を買うのも楽しい。値段はちょっとお高いが、それもまたステイタス!
その晴れやかなイメージは今も心に沁みていて、行くだけで、物を買う以上の興奮を、百貨店から持って帰るイメージ。何かを購入したときは、高島屋の薔薇、伊勢丹のチェック柄など、お決まりの紙袋に、買ったものと一緒に「自信」も入れるのだ。
忘れていた「よそ行きの顔」を取り戻す
階ごとに世代に分かれたショップは見やすくて、家族の服もチェックする楽しさ。礼儀正しいスタッフの方に、あれが似合う、これはどうですかとアドバイスしてもらう高揚感。
この「スタッフの方の褒め&アドバイス」は極めて重要なポイントだ。というのも、残念ながら、娘の私がどれだけ母を褒めても自己肯定感を上げる効果は少ない。なぜなら私がどれだけ年を取りオバハンになろうが、彼女の頭の中では永遠にチビッ子のまま。褒め言葉も説得力を感じないのだろう。「ハイハイ、ありがとうね〜」程度にしか聞いてくれないのである。
その点、プロに「この色が似合う、この着こなしがいい」と具体的に助言され、トドメに「お似合いです!」と言われると比べ物にならないほど自信につながる。
ただスタッフの褒めテクニックがスゴ腕すぎると諸刃の剣。実際私も、母がひっくり返るような価格の服を買いそうになり、「ケーッ!」というヘンな声で止めた、という経験はある。
それでも「百貨店に行こう」と言えば、顔つきがパッと明るくなる。そして、スタッフの方との交流で、母はコロナで外に出なかった長期間で忘れてしまった「よそ行きの顔」を取り戻していった。私は、その変化に何度も助けられた。