〈デジタルの社会への定着を図るには(中略)全ての人にデジタルの恩恵を受けられる機会を与える「誰一人取り残さない」ための取組が必要〉──総務省がまとめた情報通信白書(2021年版)はそう説く。日常の買い物から情報収集、娯楽、金融取引など、個人のあらゆる活動にスマートフォンをはじめとするデジタル端末が欠かせなくなったが、それらへの苦手意識をもつ人々が一定数いるのも事実だ。アナログ人間を自認するライターの田中稲氏が、コロナ禍で挑んだ80代母「スマホデビュー」の顛末を綴る。
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長い長いコロナ禍。2020年初から、先が見えたり見えなくなったりを繰り返しもうすぐ4年目突入である。この期間、時代は大きく変わり、「コロナ感染予防」以外にも、様々な課題を私たちに突きつけてきた。その一つが、半ば強制的な「デジタル移行」である。これが本当に参った。
我が家はアナログな50代の私と、超アナログな80代の母親の二人暮らしだ。世の中の流れには抗えず、母にもスマートフォンを持ってもらうことにした。そして現在もまだ、スマホとの仁義なき戦いは続いている。
自粛の閉塞感を打破したかった
スマホデビューは2年ほど前。きっかけとなったのは、コロナ禍による高齢の母の気鬱である。自宅に籠りきりになり、だんだん口数が減っていく。自粛生活で、唯一の趣味であるショッピングにも行けず、近所のお友達とお食事にも行けず。それまで頻繁に遊びに来ていた姉家族は、重症化リスクの高い母に万が一でも移してはならないと、家に来なくなった。
母も元気がなくなっていったが、同居の私も参ってしまった。狭いマンションで、自粛中延々、落ち込み気味の母と二人。この閉塞的な状態に息が詰まりそうになってきた。逃げたくても外食できない、旅行にも行けない!
そこで結局、救いを求めるように母の携帯をガラケーからスマホに変えた。私以外の人とリモートで交流を持ってほしい。また、自粛による筋力低下・気鬱から来る「フレイル」という症状に陥るシニアが多く、これには社会参加が大きなカギとなるという。「高齢者こそ、インターネットやリモートサービスが使えるようにしておくべき時代」──。そんなネットニュースの文言も、私の背中を押した。