鉄道は、多くの人にとって交通の手段としてだけでなく、趣味や娯楽の対象としても親しまれており、ときに人々の知的好奇心を刺激してくれる。交通技術ライターの川辺謙一氏による連載「鉄道の科学」。第6回は「列車と車両のちがい」について。
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「線路上を走るもの」=「列車」ではない
鉄道を利用すると、「列車」という言葉をよく耳にします。たとえば駅では、「まもなく1番線に○○行き列車が到着します」などという案内放送が流れることがあり、「列車」という言葉を聞く機会が多いです。
このため、線路の上を走るものはすべて「列車」だと思われている方もいらっしゃるかもしれません。たしかに鉄道利用者が乗るのはすべて「列車」なので、そのような方がいても不思議ではありません。
ただし、鉄道現場で働いている方々は、線路の上を走るものをすべて「列車」と呼ばず、「車両」と呼ぶことがあります。たとえば車庫に留置して(置いて)ある電車は、「列車」ではなく、「車両」と呼びます。つまり、「列車」や「車両」という言葉を明確に区別して使っているのです。
なぜこのような区別をしているのでしょうか。そもそも「列車」と「車両」は何がちがうのでしょうか。今回はその謎に迫ってみましょう。
ちがいは「列車番号」の有無
まず結論から言います。「列車」と「車両」のちがいは、「列車番号」の有無です。つまり「列車番号」があるものを「列車」、ないものを「車両」と呼ぶのです。
「列車番号」は、その名の通り「列車」を識別するために付けられた番号です。電車の場合は「1234M」、気動車(ディーゼルカー)の場合は「1234D」などというように、数字とアルファベットを組み合わせて表記します。なお、機関車が客車や貨車をけん引する「列車」の場合は、数字のみで表記します。
鉄道現場で働いている方々が使っている列車ダイヤ(列車の動きを線で示す図表)には、定められた区間における「列車」の動きが線で記されており、それぞれに「列車番号」が併記されています。ここでいう「列車」は、人や物を運ぶ「営業列車」だけでなく、それ以外の「回送列車」も指します。