初詣シーズンで全国各地の神社は、多くの参拝客で賑わっている。昨今は、パワースポット巡りや御朱印帳集めブームが後押しし、初詣の時期以外でも混雑していることが少なくない。そうした中、参拝時に行列ができ、なかなか自分の番が回ってこない、という経験をしたことのある人もいるだろう。だが、その行列は、本当に参拝マナーに合致したものなのだろうか──。
拝殿やその前におかれた賽銭箱の横幅が広い場合、構造上は横に4人、神社によっては8人ほど並ぶことも可能だ。コロナ禍以降はソーシャルディスタンスを示すために、足元にマークが置かれている神社もあり、「横4人」「横8人」などと推奨している場合もある。しかし、実際に参拝列を見ると自然発生的に「2人ずつ賽銭箱の前に並ぶ」ケースは少なくなく、結果、細長い行列ができてしまう。ときには「1人ずつ参拝する」列ができていることもある。どうしても中央にある鈴を鳴らしたい、という人も多いのかもしれない。
こうした行列ができると、賽銭箱の空いている場所にスッと入った参拝客に、「ずるをするな!」「横入りされた!」などと怒鳴る人もいて、トラブルが発生することもある。
関東地方の某神社で神主を務めるAさん(30代男性)は、こう解説する。
「神社の本殿に細い列を作る光景は、特に最近、よく目にするようになりました。パワースポットブームで神社がメディアに取り上げられ、旅行客などが増えたこともその要因かもしれません。この細い列を正しいマナーだと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、これは勘違いです。一般的にご神体(礼拝の対象となるもの)の真正面に立つという厳格なルールはなく、お社の前でご挨拶をすればよいとされています。
お賽銭を入れる隙間があるならば、そこにスッとお賽銭を入れて、神様にご挨拶やお願い事をすればよいのです。空いているスペースがあるのならば、わざわざ長蛇の列の最後尾に並ぶ必要はありません。京都にある有名な神社では、わざわざ『お賽銭の列に並ぶ必要はございません』という貼り紙があるほどです」(Aさん)
たしかに、東京神社庁の公式ウェブサイトに記載された「神社参拝のかたち」にも、〈私たちが神社にお参りする際の作法には厳格なきまりはありません。敬意の表し方は人それぞれですし、参拝の作法も神社や地域によって特色があります。〉との記載があり、参拝列についての記載はない。多くの神社のウェブサイトをみても、「二拝二拍手一拝」の作法がその基本形とあるものの、「2列の参拝列を作ることがマナー」という記載はない。