世界情勢が混乱を極めるなか、低迷を続ける日本経済に復活の兆しはあるのか。インフレや増税、さらには利上げなど、懸念材料は多いが、果たして2023年は“失われた30年”を取り戻すターニングポイントになるのか。株式評論家の植木靖男氏、武者リサーチ代表の武者陵司氏、不動産コンサルタントの長嶋修氏が話し合った。【全3回の第1回】
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植木:今、日本株には、あるアノマリー(経験則)が当てはまろうとしています。現在の東京証券取引所の前身が創設され、日本の株式市場が始まった1878年は、36年に1回の「五黄の寅(※ごおうのとら、九星気学の「五黄土星」と干支の「寅」が重なった年。最も運気が強いとされる)」でした。
それから36年周期で1914年は第1次世界大戦、1950年は朝鮮戦争が勃発。86年は前年のプラザ合意に見られるような“通貨戦争”があり、平成バブル景気が始まった。いずれも戦争を機に、海運株が急騰して相場全体が大きく上昇した歴史があります。
それから36年後の2022年、ウクライナ戦争が起き、やはり海運株が急騰した。アノマリーに照らし合わせれば2022年以降、株価は大きく上昇し、再びバブルが起きるのではないかと思います。
武者:相場観は私もまったく同じ考えです。2023年から2024年にかけて日経平均株価がバブル超えの4万円を目指す展開を考えています。ただ、それも通過点に過ぎず、日経平均はあと10数年で10万円を超えてくるような長期的な株価上昇の波に入っていると見ています。
植木:私は2023年に3万円台で、長期的には4万円台からもっと上の可能性もあるとは思いますが、武者さんがそこまでおっしゃる論理的根拠は?
武者:一番大きな根拠は米中対立です。振り返ると、日本企業が大躍進を遂げた1980年代後半以降、アメリカは「超円高」と「貿易摩擦」によって日本叩きに走り、日本経済の凋落が始まった。バブル崩壊後の「失われた30年」です。
それがいまや当時の裏返しで、アメリカが対中戦略を進めるうえで“強い日本”が必要になっている。2022年には為替が円高から「超円安」となり、世界的な半導体メーカー・TSMC(台湾積体電路製造)が熊本県に新工場を作るなど、空洞化が叫ばれて久しかった日本に再びハイテク産業を集積しようとしています。この先、日本企業の工場の国内回帰が進めば、過去最大級の設備投資ブームが考えられるでしょう。
長嶋:たしかに、TSMCが進出する熊本県菊陽町は開発がどんどん進んで、2022年度の地価上昇率が全国1位となっています。ソニーグループも熊本県内に新工場建設を発表したように、波及効果は相当大きい。
武者:もうひとつ大きな要素は、日本の株価がばかげているほど割安なことです。株式の益利回り(1株当たり純利益を株価で割った指標)で見ると、バブル期の1990年は2%と割高でしたが、今は8%と極端な割安状態。2022年12月に日銀が長期金利の上限を0.25%から引き上げたとはいえ、国債を買っても金利はせいぜい0.5%だから、株を買ったほうが明らかに有利な状況です。
日本の失われた30年のリカバリー(失地回復)が始まりつつあり、株価がこれだけ割安な以上、誰でも資産形成の中心に株式を置かないわけにはいかないでしょう。