インフレ、円安がどこまで進むのか
武者:FRB(米連邦準備制度理事会)をはじめ世界の主要中央銀行は、株や不動産といった資産価格はなるべく高いほうがいいと特別の配慮をしてきました。それが見事に成功してきたのがアメリカで、日本は遅れていましたが、ようやく岸田政権がそれに気がついて「資産所得倍増プラン」を打ち出した。
植木:中央銀行の政策でいうと、これから日本のインフレ、そして円安がどこまで進むのかが大きな問題でしょう。アメリカが金融引き締めに動いているといっても、まだ世界中にお金が溢れていて、それを回収するまでには相当時間がかかる。日銀は金融政策を修正したとはいえ、黒田東彦・総裁曰く「金融引き締めには転じていない」わけですから、日本のインフレと円安はまだまだ続くと見たほうがいい。
そして、インフレは株価にとってむしろ追い風になる。物価が上がれば株価も上がるわけです。
武者:みんなインフレは悪いといっているけど、よくないのはむしろデフレです。“デフレは資本主義の本質的な否定である”というのがアメリカの主流派のエコノミストの見方です。
現在のインフレは、供給が制約されたモノ不足によるものですが、世界的には賃金上昇によるインフレも進行している。賃金が上がれば、その結果として生活水準の向上による需要が生まれ、企業の収益につながるという好循環になる。アメリカはインフレ対策として利上げを進めていますが、そうした好循環を潰すことは考えていないはず。
長嶋:デフレは経済全体が縮むだけなので、適度なインフレで循環していくことで全体が豊かになる。資本主義である限り、そうしていかざるを得ないと思います。
植木:日本は30年間、デフレのマグマが溜まっている。そうなっては困るが、マグマが制御できず爆発すれば、ハイパーインフレになる可能性すらあります。
武者:この30年間で日本は資産価格も物価も賃金も異常なほど安くなってきました。そのマイナスの波がプラスに転じれば、最初は緩やかでも、相当長期にわたって上昇する時代に入ったと見るべきだと思います。
(第3回に続く)
【プロフィール】
植木靖男(うえき・やすお)/1938年生まれ、東京都出身。日興証券、日興リサーチセンターを経て1999年に独立。新聞、テレビ、ラジオ、週刊誌、講演会で株式評論家として活躍中。
武者陵司(むしゃ・りょうじ)/1949年生まれ、長野県出身。(株)武者リサーチ代表、投資ストラテジスト。1973年大和証券入社後、ドイツ証券副会長などを歴任し、2009年より現職。
長嶋修(ながしま・おさむ)/1967年生まれ、東京都出身。不動産コンサルタント。業界の第一人者としてテレビ等メディア出演、講演、出版・執筆活動等で精力的に活動中。
※週刊ポスト2023年1月13・20日号