何かとトラブルになることが多い「相続」。売るに売れない“負動産”を相続してしまうと、そこから思いもよらぬ苦労が生じることもある。ここでは評価額の低い“山”の相続人になってしまった56才・会社員女性の実体験を紹介するとともに、専門家のアドバイスを聞いた。
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司法書士に相談すると「手続報酬に50万円以上」
15才年上の夫(享年70)が心筋梗塞で突然死したのは1年前のこと。「そろそろふたりで終活をしなくちゃね」、なんて話していた矢先のことでした。
夫は自宅や車を残してくれましたが、財産と呼べるものはほとんどありませんでした。ただ唯一、父親から相続した1500坪の土地(山林)が秋田県にあるとのこと。それを知った私は最初、(それだけ広いなら、かなりの財産になるかしら)と、ちょっとホクホクしていたのですが、ふたを開けてみたらとんでもありません!
まずはその土地の価値を知るため、地方自治体に連絡して「名寄帳」(市区町村が作成している固定資産課税台帳を、所有者別に一覧表にまとめたもの)を取り寄せました。すると価値はわずか20万円程度。しかもその土地は、夫のきょうだい5人で分けることになっていたので、夫の取り分は5分の1。つまり4万円相当しかありませんでした。
司法書士に相談したところ、手続き報酬に50万円以上かかるとのこと。4万円のためにそこまでかけられないと、手続きは自分ですべて行おうと腹をくくりました。
現地の法務局に問い合わせると、電話や郵送でも手続きできるというものの、ちょうどコロナ禍だったため、担当者がリモート業務をしていてなかなか手続きが進みませんでした。電話で長々とやり取りするのも歯がゆく、結局、私が5日ほど会社を休んで、秋田の法務局に行って手続きをしました。
手続きはその日の担当者によって対応が違い、中には、「書類のチェックは後日行います。そのときに不備があったらまた来てください」とその場で書類チェックなどをせず、受け取っただけですぐに帰そうとする人も……。
私が遠方に住んでいることと、直接手続きできる期間が5日しかないことなどを必死で訴えた結果、なんとか期間内に処理してもらえましたが、役所の言うとおりに郵送で書類の往復を繰り返していたら、なかなか終わらなかったでしょう。
結局10万円以上の費用と手間ひまをかけて、なんとか手続きを終えました。その後、“私の土地”を見に行くと、そこは雑草が茂る荒れた山林。まさに売るに売れない「負動産」。ただ持っているだけでも固定資産税と場合によっては整地費用もかかります。この土地だけ相続放棄したかった……。
キャンプブームの昨今、山を購入する人が増えていると聞きますが、やめた方がいいと思いますよ。山って売るに売れないし、継ぐことになる人が大変ですから。
(56才・会社員)