薬価が高いことも日本での普及のハードルになるという指摘もある。
2021年に米国でアデュカヌマブが承認された当初、販売価格は当時のレートで年間600万円超と高額だった。米国は基本的には民間の保険で医療費をカバーするのが主流だが、日本は国の健康保険制度によって賄われている。日米で薬価算定のルールは異なるため米国での価格がそのまま反映されるとは限らないが、高額な薬が承認され、保険適用となると財政が立ちゆかなくなる可能性があるのだ。
アデュカヌマブより高額な新薬で保険適用されている例もあるが、日本では現在65歳以上の認知症患者数は推計600万人。対象者はその一部だとしても、財政的な負担は大きくなる。
今回のレカネマブは、米国では販売価格が年間350万円以下だ。
「確かに安くなりましたが、もし日本で承認されてもレカネマブの適応を判断する『アミロイドPET検査』のできる施設が少なく、費用も現時点で数十万円と高額です。こうした検査に保険が適用されるかどうかも普及のポイントとなってくるでしょう」(岩坪教授)
さらに岩坪教授はレカネマブについて「日本ではあまり周知されていない注意点もある」と語る。
11月の発表では最終段階の治験とその後の継続試験で同薬が投与された1608人の被験者のうち2人が脳出血で死亡したと報告された。
エーザイは、脳出血の要因となりうる抗凝固薬を患者が使用していたことから、「死亡はレカネマブに起因するものではない」としている。
「死亡例が出たことは軽視すべきではありません。これが治療薬の投与に直接起因するものかはさらに検討が必要でしょう。全般的には安全性のプロフィールはよく保たれていると考えられます。
また、同薬は脳浮腫や脳出血の副作用が稀に重症化することも知られています。使用の際には脳浮腫・脳出血などの徴候がないかを定期的に確認し、リスクの高い人を除外するなど、適正使用のためのガイドラインに沿った治療を徹底する必要があります」(同前)