恵子は女優のような煌びやかな容姿をしている。ニューヨークにおける森下一家の記憶を呼び起こしてくれた。
「強く印象に残っているのは、とにかくタバコをよく吸われる姿です。ものすごく長いリムジンに乗ってやって来るのですけど、ドアが開くと、車の中から真っ白い煙が吐き出される。その中から森下さんが現れる。そんな感じでした。森下さんはとにかくせっかちな方で、なんでも急いでやる。『恵ちゃん、タダで動くのは、地震だけなんだよ』というのが口癖でした。要するに、何をするにもカネがかかるという意味で、『うちの娘たちなんか、あんなにたくさんカネを使うけど、タダでは俺に灰皿一つ持って来てくれないんだ』とブーブー文句を言っていました」
森下は亡くなる数年前にタバコをやめるが、それまでは1日6箱を吸ってきた。灰皿で火を消したかと思うとすぐに新しいタバコを銜えて火をつける典型的なチェーンスモーカーだ。さらに恵子がニューヨークにおける森下ファミリーのエピソードを付け加える。
「3人の娘さんのうち、長女の方は意外と地味でした。けど、次女と三女の方はとても派手で、買い物なんかもすごかった。エルメスの手提げバッグを開けると、そこにドル紙幣がびっしり詰まっている。その札束をわしづかみに取り出し、買い物の代金を支払うんですから、びっくりしました。欧州は現金の持ち込みにうるさいけど、アメリカは申告さえきちんとすれば、5000万円でも1億円でも自由に現金を持ち込めますから、森下一家はそれをドルに換えて買い物をしていたのでしょう。上から下までブランド品で着飾っていて、とても目立っていました」
【プロフィール】
森功(もり・いさお)/ノンフィクション作家。1961年福岡県生まれ。岡山大学文学部卒。新潮社勤務などを経て2003年よりフリーに。2018年、『悪だくみ──「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』で大宅壮一ノンフィクション賞受賞。近著に『菅義偉の正体』『墜落「官邸一強支配」はなぜ崩れたのか』など。最新刊は『バブルの王様 森下安道 日本を操った地下金融』。