捜査が続く五輪汚職事件の核となる“スポーツビジネス界のドン”高橋治之被告。彼の金脈の源泉となった弟・治則は、“環太平洋のリゾート王”と呼ばれたバブル紳士だが、その兄弟を支えたキーパーソンが、貸付総額1兆円超のノンバンク・アイチを率いた森下安道である。新刊『バブルの王様 森下安道 日本を操った地下金融』を上梓したノンフィクション作家・森功氏が狂乱の時代と現代を繋げる。(文中敬称略)【前後編の前編】
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新たな資金ルート
捜査終結報道から一転、入札談合事件に切り替えた東京地検特捜部の狙いはどこにあるのか──。東京五輪・パラリンピック汚職にテスト大会事業を巡る入札談合疑惑が浮上し、マスコミ各社が再び活気づいている。
紳士服のAOKIホールディングスに始まり、出版のKADOKAWA、広告代理業の大広、ADKホールディングス、マスコット製造販売のサン・アローにいたるまでの贈賄5ルート。特捜部はこれまで、大会組織委員会元理事の高橋治之(78)に対する贈賄の疑いで、それぞれ業態の異なる企業トップの会長や社長ら合わせて15人を逮捕、起訴してきた。
半面、早くから事件の本丸と見られた組織委員会元会長の森喜朗(85)や日本オリンピック協会(JOC)前会長の竹田恒和(75)は、今のところ事情聴取にとどまっている。それどころか、東京への招致段階から暗躍し、贈賄側のカギを握るとされた電通の現役幹部社員でさえ、5ルートでは逮捕されていない。
五輪汚職事件はそのまま幕を閉じるかのように報じられてきた。そこへ談合という新たな資金ルートが浮かび、にわかに捜査への期待が膨らんでいるのである。
五輪汚職では、競技のテスト大会計画委託事業を巡って電通やADKといった大手広告代理店が受注調整を繰り返してきた。地検特捜部はそれが独占禁止法違反にあたると見て捜査を進めてきた。捜査関係者が解説する。
「電通、ADKなど広告9社とともにJV(共同事業体)を組んだ団体が話し合い、26競技を1件400万~6000万円で受注した談合の疑い。捜査のポイントは公正取引委員会との連携です。逮捕したADK幹部が公取に談合の事実を認めている。公取には、談合を認めれば刑事告発を見送ったり、罰金を軽くするリーニエンシー(課徴金減免)制度があり、それを使ったわけです」