しかし今や経営の指標が大きく変わった。
「以前はリストラで人件費を削った経営者が評価されたが、現在は優秀な人材に投資することが企業の価値を高めることがデータからわかってきた。投資家も賃上げして利益を増やした企業を評価し、株価が上がるようになった」(溝上氏)
そうなると、内部留保の500兆円が生きてくる。経済ジャーナリストの荻原博子氏は、「内部留保が山のようにあるため、賃上げする力は十分ある。今はその入り口にある」と見る。
この大企業で始まった賃上げラッシュは、中小企業にも広がろうとしている。東京商工リサーチの調査では、2023年度に賃上げを予定しているのは大企業が約85%、中小企業も約81%にのぼる。
こちらの理由は「労働力不足」の深刻化だ。人材の奪い合いは中小企業のほうがより激しい。
少子化の進展で日本の労働人口は大きく減っているうえ、コロナからの経済活動再開で人手不足が一挙に表面化した。コロナ禍で落ち込んでいた有効求人倍率は1.35まで復活し、2022年は人手不足が原因の倒産件数が26%増(帝国データバンク調査)だった。日本の労働力不足は2030年に644万人に達するという推計もある。
「ウィズコロナでホテルや飲食業などのサービス業は以前の営業状態に戻りつつあるが、人手不足のためにホテルは客室稼働率を下げたり、飲食店も営業時間を短くするなどフル稼動できていません。これからコロナが一段落して、経済が戻ってくると、人手不足はさらに深刻化するはずです。中小企業も賃上げで人材を集めようという機運が高まっている」(荻原氏)
まさに大賃上げ時代が近づいているのだ。
※週刊ポスト2023年2月3日号