これまであらゆるドラマ、映画、漫画、小説などのエンタメの題材となってきた「上京」というテーマ。振り返れば、朝ドラ『ひよっこ』(2017年)でみね子が上野駅に降り立った高度成長期も、『東京ラブストーリー』(1991年)のカンチとリカが大恋愛を繰り広げたバブル時代も、上京には若者の夢がつまっていた。
「よく覚えているのは、中学生のときに夢中になって見ていた中山美穂主演の『君の瞳に恋してる!』(1989年)。福岡から出てきた女の子が代官山で暮らすシーンが描かれていましたが、まるで夢物語のようだった。あの頃はティラミスとかDCブランドとか、食べ物もファッションも最先端のものは東京でしか手に入らなかった。子供ながら“東京に行かないと始まらない”と思いながら過ごしていました」(40代女性)
トレンド評論家の牛窪恵さんが解説する。
「『男女7人夏物語』(1986年)をはじめとしたトレンディードラマが全盛だったバブル期まで、東京は唯一無二のトレンドの発信地であり、頑張って働けば独り立ちできる“稼げる”場所でもあった。当時のドラマではおしゃれなマンションに住んで東京暮らしを満喫する若者たちの姿が頻繁に登場します」(牛窪さん・以下同)
しかし「東京一強」は長くは続かない。
「バブル崩壊を経て、日本経済は低迷期に入り、2000年代半ば頃から“地元回帰”が起こります。そこへ追い打ちをかけたのが、リーマン・ショックと東日本大震災。当時の若者は草食系世代などと称され、地元が大好きで親や地元の友達と仲がいい。地方にも巨大な商業施設があり、何でも地元で買える。不景気ゆえに東京に出ても独り立ちできるとは限らない。そんな中で『無理して上京しなくてもいい』という価値観が広まりました。その後、イオンで何でも揃って満足する“イオニスト”という言葉も生まれました」