「がんの治療はとにかくお金がかかる」。そんなイメージを持つ人も多いかもしれないが、近年、高額な最先端治療が相次いで「保険適用」になってきている。保険適用の薬や手術なら、医療費の自己負担が毎月一定額以下となる公的健康保険の「高額療養費制度」が利用できる。高額ながん治療でも、平均的な年収の現役世代は月8万円程度、70歳以上で年収370万円までの人は月6万円弱の自己負担で受けられるのだ。
たとえば、メラノーマ(悪性黒色腫)の治療目的で開発されたオプジーボは、2014年の発売当時、1年間使用した場合の薬価が3000万円を超えた。「高すぎる」と批判も受けたが、その後は保険適用となるがんが10種以上に増えたこともあり、薬価が断続的に改定。現在は当初の4分の1程度まで低下した。
薬ばかりではない。高額な医療機器による治療も保険適用が進んでいる。
その代表例が「手術支援ロボット」だ。特にダ・ヴィンチという米製品が世界で普及しており、日本でも10年ほど前から保険適用が進んだ。現在までに適用対象の疾患が増えてきている。医療経済ジャーナリストの室井一辰氏が語る。
「4本の腕を持つロボットを執刀医が制御して内視鏡手術を行なうダ・ヴィンチ手術は、現在、肺がんや食道がん、胃がん、肝臓がんなど多くのがん手術に保険適用となっています。医師は高画質モニターで3D映像を見ながら操作し、鉗子やメスは手ぶれ補正機能によって繊細で複雑な操作が可能。切開部分が小さく出血も抑えられるため、身体への負担が少ない『低侵襲』というメリットがあります」
本体価格は最新機種で約3億円、廉価版で約2億円と言われている。維持費はいずれも年間2000万円ほどと高額だが、手術ロボットを導入するメリットとは何か。
「低侵襲の内視鏡手術にも熟練を要するため、これまでの外科手術では執刀医の腕が治療の成果を左右していました。それが手術支援ロボットの導入で精度が高まり、難しい手術に対する医師の習得期間が短くなると期待されます」(同前)