大前研一「ビジネス新大陸」の歩き方

大前研一氏「インボイス制度は税務会計デジタル化の千載一遇のチャンス」 鉛筆なめなめ帳簿から卒業を

「インボイス制度」が日本の税務会計をどう変えるか(イラスト/井川泰年)

「インボイス制度」が日本の税務会計をどう変えるか(イラスト/井川泰年)

 10月から「インボイス制度」がスタートする。インボイス(適格請求書)とは、売り手が買い手に対して正確な適用税率や消費税額などを伝えるもので、売り手の登録事業者は、買い手の取引相手から求められたらインボイスを交付しなければならない。買い手はインボイスを受け取った場合のみ、消費税の仕入税額控除の適用を受けられる。

 この制度に対して、従来の免税事業者(課税売り上げ1000万円以下)を中心に反対意見も多く出ているが、経営コンサルタントの大前研一氏は「日本の税務会計をデジタル化する千載一遇のチャンス」と捉えている。その真意について、大前氏が解説する。

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 そもそも、日本は「消費税」と呼んでいるが、実は最終消費者だけが負担する本来の消費税(売上税)ではない。製造・流通・小売りの各段階で創出された付加価値に対して課されるヨーロッパ方式の「付加価値税(VAT)」であり、それは原則としてすべての取引にかかる。

 日本のGDP(国内総生産=付加価値の総和)は約550兆円だから、本来であれば、消費税率10%なら約55兆円の消費税収があるはずだ。しかし、実際は約22兆円(2021年度)しかない。つまり、例外が多々あるため、6割も取りこぼしているのだ。

 例外の1つが、免税事業者に対する消費税の納税義務免除だ。免税事業者も物やサービスを売った時は買い手から消費税をもらうが、それは国に納める必要がないので、そっくりそのまま免税事業者の懐に入る。いわゆる「益税」である。それが取りこぼしの一部になっているわけだ。

 付加価値税を消費税と呼んだ財務省の問題もあるが、付加価値税である以上、すべての取引に課税するのが原理原則だ。つまり、これまでの税制が歪んでいたのであり、その歪みを是正するだけで消費税収を大幅に増やすことができるのだ。

 しかも、青色申告は事業者が自分でつける帳簿方式なので、私的に使った外食代や旅行費用などを経費として計上しているケースが少なくない。売り上げが1000万円以上の場合、会社を分割して課税を逃れている例もある。

 だが、インボイスをデジタルでやれば、すべての取引データが電子帳簿に記録・保存されて透明になるので、そういうイカサマがやりにくくなる。原簿がデジタルになっていれば、税務調査もAI(人工知能)を活用して怪しい個所がすぐにわかるから役人を大幅に削減できる。

「経理業務が繁雑になる」という反対もあるが、会計ソフトを使えば簡単にできる。インボイス制度の導入は、鉛筆なめなめ帳簿をつけるアナログで不透明なやり方から卒業する、またとない機会なのである。

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