違法行為については、その犯人だけでなく、犯罪を見逃した人が罪に問われるケースもある。もし目の前で起きた万引きを見逃した場合はどうだろうか。弁護士の竹下正己氏が、実際の相談に回答する形で解説する。
【相談】
文具店を営んでいます。先日、幼少の頃から顔見知りの中学生が、うちの商品を万引き。さんざん悩んだ挙句、警察に連絡せず、彼にはきつく説教をして家に帰しました。しかし、万引きは犯罪です。説教だけの対応が正しかったのか、わかりません。やはり、私の行為は犯人隠避になってしまうのでしょうか。
【回答】
犯人隠避罪は、国の刑事司法作用を保護法益とする犯罪です。刑法103条は、「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者、又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者」を処罰すると規定しています。
犯人蔵匿は、隠れ場所を提供してかくまうことです。隠避は例えば、警察に嘘をつくなどして捜査を妨害した場合、犯人隠避となりますが、それ以外でも犯人の逮捕を免れさせれば、何でも犯人隠避になると読めないこともありません。
そこで万引きを見逃したり、警察に通告しないことが、罪に問われるのか心配になると思います。
しかし、何かの行為をしないという「不作為」が犯罪になるには、保護者遺棄罪のように不作為そのものが犯罪になる場合(真正不作為犯)の他は、作為する義務があることが前提になると解されています。
以前、厚労省幹部を逮捕・起訴した検察官が、証拠のフロッピーディスクの改ざんという証拠隠滅をしたことに関連し、そのことを知りながら、証拠隠滅罪の捜査をする権限と職責があったにもかかわらず、捜査せずに隠ぺいしようとした大阪地検の特捜幹部が、犯人隠避に問われた事件もありました。検察官には捜査権限と、その職務があるのに行使しなかったのですから、適正な刑事司法作用を妨害した犯人隠避になります。