ベストセラー『定年後』の著者である(68歳)さんは、平均寿命が伸び続ける中で、現役時代に仕事に没頭した男性は、定年後に新たな課題に直面すると考える。いったいどういうことか。新著『75歳からの生き方ノート』の中で、その問題と解決策について具体的に提案する楠木さんが、その真意を明かす。
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定年までバリバリ働いていた男性がリタイア後に気をつけなくてはならないのは家族との関係かもしれません。社内では羽振りが良くても、家に入れば役員も平社員も同じです。なかには妻に頼りきりになる人もいます。
これは世代によっても異なるのでしょうが、昔気質の男性だと「今日の昼飯は何だ」「コーヒー淹いれてくれ」などと、上から目線で家族に接しがちです。特に、「俺が家族を養っているのだ」という意識が強い人ほどそうなるようです。
会社の仕事中心で働くことができたのは家族のサポートがあったから。家族を養う力があるというと、お金を稼ぐことを中心に考えがちですが、実際には身の回りの衣食住をきちんと処理できることも大事なのです。
定年後は、生活に重点が移ります。今まではお金を稼ぐという意味での生活力を最大限にするために、衣食住を整えるという意味での生活力は家族に依存していたわけです。昨今の現役世代は、共働きも多く、稼ぐという意味の生活力の不均衡は小さくなっているように思います。
以前、60歳を過ぎた女性たちに、「定年後になって旦那さんとの関係はどうですか」と取材して回ったことがあります。実際の状況は千差万別というか、夫のことをボロクソにいいながらも言葉の奥に愛情が感じられる場合もあれば、それを語る顔つきを見ると本当に嫌がっていて、完全に冷め切っているケースもありました。
家族のあり方はいろいろあって然るべきなので、「定年後はこうあるべきだ」などと一括りにはできません。ただ取材をしてみて、お互いに率直に話ができる関係が成立しているかどうかが、うまく長続きする秘訣ではないかと感じました。きちんとコミュニケーションがとれていれば、表面上は、バラバラに離れているように見えても、大丈夫だという感じです。