中国国内の金融システムの中で育成
2021年における中国のAR/VRコンテンツ、サービス市場における同社のシェアは2.6%で業界トップ、AR/VRサービスに限ればシェアは13.5%で、業界トップである。艾瑞コンサルティングの調査によれば、2021年におけるAR/VRコンテンツ、サービスの市場規模は217億元(4232億円)、2022年には357億元(6962億円)に増加、2026年には1302億元(2兆5389億円)に成長すると予想しており、この間の年平均成長率は38.2%に達すると予想している(データは上場のための有価証券報告書より)。業界の急成長に沿って、同社の業績も急成長すると予想されている。
同社は2022年10月18日、香港市場に上場したばかりの会社であるが、他の香港上場の有望民営企業と異なる点がある。それは国内の金融システムの中で育成され、創業から上場企業へと成長した点だ。
たとえば、香港市場に上場する新エネルギー自動車メーカーの蔚来集団、小鵬汽車、理想汽車や、別の業界でもっと規模の大きなところでは、ネットイース、アリババグループなどは、欧米機関投資家、エンジェル投資家、ベンチャーキャピタルから資金を調達し、米国市場への上場を経て、香港市場に上場している。米国の金融システムを借りて、米国金融機関とウインウインの関係を結び、大きく成長している。
ところが同社は、国内投資家からの資金調達や、国内新三板市場への店頭公開などによって成長のための資金を得て、事業規模を拡大させている。それは、米国流のイノベーション企業の育て方を中国が吸収し、自国内でそのシステムを回し始めていることを意味するのではないか。
米中間の民間企業の関係は補完関係にあり、相互に利益を享受しあう関係にある。それは金融業界だけに限られることではない。
商務部が2月16日に行った記者会見によれば、米中双方いずれの統計においても、2022年における米中貿易額は過去最大を記録したようだ。これは、米中の経済構造が相互補完的であり、貿易を行うことが両国企業にとって利益になるということを意味している。
2018年以来の米国による対中強硬策も、両国の貿易拡大の趨勢を止めることはできないでいる。安易な米中デカップリングは米国企業の収益機会を奪い、結果として中国の経済システムを一掃強化することになってしまうだろう。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。楽天証券で「招財進宝!巨大市場をつかめ!今月の中国株5選」を連載するほか、ブログ「中国株なら俺に聞け!!」も発信中。