巨大IT企業レイオフの背景
ここで想起するのは、昨年秋からアメリカの巨大IT企業で相次ぐ大規模リストラだ。ツイッターは約7500人いた社員を3分の1に減らし、メタ(フェイスブックの親会社)1万1000人、アマゾン1万8000人以上、マイクロソフト約1万人、アルファベット(グーグルの親会社)1万2000人を削減する。
その理由を新聞やテレビは、新型コロナウイルス禍の影響や景気後退による経営環境の悪化と報じている。だが、実はこれらの巨大IT企業はチャットGPTの威力と衝撃をいち早く予見し、それゆえ大量解雇に踏み切った可能性がある。
たとえば、ツイッターのCEOになったイーロン・マスクはチャットGPTに出資しているし、7年前に非営利団体として設立された当初からペイパル人脈が莫大な投資をしている。つまり、チャットGPTを最もよく知り得る立場のイーロン・マスクらが今回の大量解雇を先導しているのだ。
私は最新刊『第4の波』(小学館)で、友人のアルビン・トフラーが説いた3つの波では前半で大量雇用、後半で大量解雇が起きたことを踏まえ、2035~2045年にAIの能力が人間の能力を超える「シンギュラリティ」が到来し、AI・スマホ革命による「第4の波」=サイバー社会の後半になれば大量解雇が起きるだろう、と警鐘を鳴らした。今回のチャットGPTの勢いを見ると、それが一気に10年くらい早まった感がある。まさに風雲急を告げる事態であり、今こそ私たちは「第4の波」の本質を知り、それに備えなければならない。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『第4の波』(小学館)など著書多数。
※週刊ポスト2023年3月10・17日号