世界的にEV(電気自動車)の開発競争が激化しているが、日本勢は充電環境などインフラ面も含めて苦戦中だ。そんななか、リーディングカンパニーであるトヨタ自動車が発売した“EVではない新型車”の「安全性能」が話題を呼んでいる。
現場が章男社長と“対立”
「新型プリウスに込められた情熱について、社長の(豊田)章男さんと開発陣の“おもしろい闘い”とともに、お話しできればと思います」
昨年11月16日、トヨタ自動車デザイン統括部長のサイモン・ハンフリーズ氏は、新型車の世界初公開となる「ワールドプレミアイベント」の場で、そう語り始めた。
その車とはトヨタの看板とも言えるハイブリッド車(HEV)「プリウス」。1997年に登場した初代から数えて、実に5代目のモデルだ。
サイモン氏は同イベントで、「いつまでハイブリッドを作り続けるんだ」という批判があることを理解した上で、それでも章男社長(4月から会長)が「プリウスは、どうしても残さないといけないクルマ」とこだわったというエピソードを披露した。
それもそのはずで、プリウスは世界のトヨタの代名詞的存在でもある。モータージャーナリストの川端由美氏はこう言う。
「世界初のHEVとして発売された初代プリウスは、当時の同サイズ車に比べて倍の燃費効率を実現。しかも新車価格が300万円程度と買いやすい価格帯で画期的でした。
2003年発売の2代目がマイナーチェンジ後に海外で発売されると、環境意識の高い有名人がこぞって買い求め、レオナルド・ディカプリオらがオスカー授賞式にプリウスで乗りつけて大きな話題に。その後も3代目、4代目と続けて開発され、“エコカー”の代表的存在になりました」
サイモン氏によると、今回の開発にあたり、章男社長からは「5代目プリウスはタクシー専用車にしてはどうか」などと提案があったという。EVとの共存や環境への貢献を考慮し、走行距離の長い車として台数を増やしてこそ社会に貢献できるとの発想からだった。
しかし開発陣は所有者に「愛される車」としてのプリウスにこだわり対立。汎用車ではなく愛車の道を選んだ開発陣の提案を章男氏は拒否することなく、「この喧嘩面白いね」と発奮を促したそうだ。
その結果、これまでとはデザインも性能も一新された、まったく新しいプリウスが生まれ、今年1月に発売された。