去る1月下旬、国会の答弁に立った岸田文雄・首相は「育児中など様々な状況にあっても、主体的に学び直しに取り組む方々をしっかりと後押しして参ります」と発言。これが報じられると、岸田政権が進める労働市場改革に関連して推奨する個人の「リスキリング(学び直し)」を、産休や育休中であっても取り組むよう求めていると受け取られ、「育休は休みではない」「岸田首相は子育ての経験がないのではないか」などと猛反発が起きた。現在育休中の当事者たちは「リスキリング」についてどう考えているのか。フリーライターの吉田みく氏が、現在育休中の30代女性2人に話を聞いた。
* * *
岸田首相が表明した、「産休・育休中のリスキリングを後押しする」に対し、多くの批判の声が集まっている。転職支援を手掛けるアクシスが行ったリスキリングに関する意識調査(全国20〜50代の男女300名が対象。1月30日実施)では、84%が「リスキリングをしてみたい」と答えたものの、約6割が「産休・育休中のリスキリングは無理」と回答。興味関心がある人はいるものの、現実問題として厳しいと感じる人が多いようだ。
現在育休中の会社員・サクラさん(仮名、神奈川県在住の33歳)は、リスキリングを巡って夫婦間で意見が衝突したという。
「夫が発破をかけてくるんです」
「岸田首相が発言した育休中のリスキングを聞いたとき、私には絶対に無理だと思いました。初めての育児でヘトヘトなのに、学び直しの時間も気力もありません。でも夫は、『これからの時代は人一倍頑張らないと残っていけないな』と発破をかけてくるんです……」(サクラさん)
サクラさんが勤めているのは広報関連の部署。普段から様々な情報に触れて発信していくことを求められる仕事だという。そのため、育休中もニュースなどで最新情報のチェックは欠かさずに行っているそうだ。サクラさんとしてはそれだけでも十分だと思っていたが、夫に言わせると「それでは不十分」とのことだった。一体なぜそこまで強く妻にリスキリングを求めるだろうか。
「私の働く部署では毎日残業2時間くらいは当たり前。仮に1年で復職しても育児との両立が難しいため、部署異動をさせられる可能性が高いです。夫に言わせると、『どの部署に配属されても問題なく勤務を続けるためにも学んでほしい』とのことでしたが、私としては今の会社で勤め続けるのが難しいと感じたら、転職も視野に入れています。そう伝えると、夫に『そんな簡単に転職できると思っているの? 考えが甘すぎ』と指摘されました」(同前)