“超富裕層”への風当たりが強まっている。昨年末にまとめられた2023年度与党税制改正大綱では、「超富裕層への課税強化」が盛り込まれた。給与のほか株式や土地建物の売却益などを合計した年間所得が30億円を超える「超富裕層」への課税を強化する見通しだ。
現在、給与所得の所得税率は金額に応じて最大55%と高いのに対し、株式の売却益や配当といった金融所得の税率は一律約20%。つまり、金融所得が多い富裕層ほど税負担を減らしやすくなっているということだ。特に統計上では年間総所得1億円を境に所得税の負担率が減少に転じていることから、「1億円の壁」が問題視されてきた。
そこで、こうした“金持ち優遇”を是正するため、2025年から“富裕税”を導入して超富裕層に追加の税負担を求める見込みなのだ。
「超富裕層」はわずか0.16%
野村総合研究所によると、そもそも「富裕層」とは、預貯金や株式などの金融資産から不動産ローンなどの負債を差し引いた「純金融資産保有額」が、1億円以上の世帯を指す。直近の2021年の調査では、純金融資産が1億~5億円未満の「富裕層」は139.5万世帯、5億円以上の「超富裕層」は、日本の総世帯数に対してわずか0.16%の9万世帯と推計されている。
もっとも多くの4213.2万世帯が属する「マス層」(純金融資産が3000万円未満)の資産合計が678兆円なのに対し、超富裕層はたった9万世帯で105兆円を保有している。つまり、ほんのひと握りの“上級国民”に、莫大な富が集中しているというわけだ。
富裕層の海外移住をサポートするアエルワールド代表で、『日本のシン富裕層』著者の大森健史さんが話す。
「もともと資産家の家に生まれて莫大な財産を相続した人や、株式や不動産の運用によって巨万の富を手にする個人投資家も多いですが、超富裕層にもっとも多いのはやはり、自らの手でいくつもの会社を興してきた起業オーナーです。加えて近年は、SNSを駆使した配信で大成功したり、暗号資産(仮想通貨)によって短期間で1億円以上の資産を築く『億り人』になるような“シン富裕層”も増えており、日本の富裕層は多様化している印象です」
ごく一般的な家庭に生まれ育った人が不意に大金を手にすることもありえるのだ。しかも前出の推計によれば、その母数こそ少ないとはいえ、富裕層の数は2013年以降、一貫して増加を続けている。
だが、今回政府が目をつけた「年間所得30億円以上」の“トップオブ大富豪”は、そんな超富裕層の中でも、さらにごくひと握り。対象者はわずか200~300人ほどだといわれている。