2019年にクローズアップされて以来、いまだに不安の影を落とし続けている「老後資金2000万円問題」。その後、コロナ禍やウクライナ戦争の影響で物価高が加速し“先立つもの”への不安はますます膨らんでいる。
だがこの問題、少々大げさかもしれない。実は、老後に2000万円が不足するという計算は“最悪の事態”を想定したもの。「夫65才以上、妻60才以上の高齢夫婦無職世帯の家計で、年金しか収入がなく、その後30年間同じ支出が続く場合」を前提としているのだ。
実際には60代を過ぎても現役で働いている人は多く、入ってくるお金は年金に限らず、不景気とはいえ多くの会社では退職金が支給される。おおかたの高齢者世帯では住宅ローンの支払いが終わって子供の教育費もかからなくなり、生活に必要なお金は年々減っていく。さらに医療費も75才を過ぎれば1割負担になることがほとんど。「2000万円問題」に踊らされ、いたずらに不安になる必要はないのだ。
“不安のアラーム”を止めれば幸福度は上がる
そもそもなぜ、私たちはこんなにも老後のお金が不安なのか。近著『シンプルで合理的な人生設計』などがベストセラーになっている作家の橘玲さんが話す。
「脳にとって、お金や時間の欠乏は食べるものがないのと同じで“このままでは死んでしまう”という警報が頭の中で鳴り響きます。そのため、いくら貯金があっても“老後の資金が足りないのではないか”と考え始めると、ほかのことが手につかなくなる。
しかし実際には、60才から80才まで20年間働けば、年収200万円でも総収入は4000万円になる。老後問題とは“老後が長すぎる”という問題なので、生涯現役なら問題そのものがなくなります。“お金がない”という不安のアラームを止めれば、人生の幸福度は確実に上がります」